小夜啼鳥が愛を詠う

振り返ると、すぐそばに停まった車の後部座席から池上さんらしきヒトが降りて来た。

タクシーじゃない。

シルバーの車高の低めの流線型の車は、かろうじて4ドアのスポーツカータイプ。


「こんにちは。……あの……宇治上神社に参ってからうかがおうかと思って……」

「や、ちょうどよかったわ。昼飯、行かない?」

池上さんは僕にそう言ってから、くるりと振り返ってドライバーに手を振った。

「ほな!トラさん、また!次は、金沢やし。世舞子(せんこ)ちゃん、ありがとう。」

……ドライバーは、あの金髪の外国人だった。

これで3度目の邂逅だな。

2人は軽い会釈を残して、走り去った。


……トラさん?

葛飾柴又のトラさんとは、似てもにつかないけど、トラさん?


「ちょー、待ってな。」

池上さんは、僕にそう断ってから、スマホをいじって、耳にあてがった。

「涼花(りょうか)?トラさん達、そっち寄ってくって。よろしく。……で、こっちで、ランチ2人、頼むわ。うん。……うん。」

電話を切った池上さんは、改めて僕に向き合って、深々と頭を下げた!

「今さらやけど、お初にお目にかかります。池上宗真と申します。わざわざのお越し、ありがとうございました。」

堂々たるイケメンに、仰々しく挨拶されてしまった。

僕は見苦しく緊張しないよう、丹田に力を入れて、空手の挨拶のように気合いを入れて踏ん張った。

押忍!……とは言わなかったけど。

「ご丁寧にありがとうございます。こちらこそ、見も知らぬ中学生の僕に親切にしてくださって、本当にありがとうございます。」

そうご挨拶してから、力を抜いて、ほほえんだ。

「やっと、逢えましたね。」

池上さんも優しい瞳でうなずいた。

「ああ。家内からも、娘からも、……さっき行った友人も、光くんを絶賛してたよ。ほんまに、男にしとくのもったいない、綺麗な顔したはるわ。あ。そや。昨日は、お舞台の裏でも、光くんと、べっぴんさんの美男美女カップル、話題やったで。」

「ほめすぎですってば!……もう。あんなに神々しかったのに……普通に、池上さんの意識もあったんですねえ。」

照れくさいからか、テンションが上がってるのか……僕は最初から、池上宗真氏に甘えていた気がする。