小夜啼鳥が愛を詠う

その夜は、池上宗真氏にお礼メールを送ることすらできなかった。

翌朝、慌ててメールした。

折り返して、池上さんは電話をくれた。

『……久しぶりの京都は楽しめはりましたか?』

たぶん僕が凹んでることはお見通しなのだろう。

池上さんの穏やかな声は僕の凹んだ心を埋めるように優しく沁み入った。

「残念ながら、すぐに帰ってしまったんです。惜しいことをしました。」

すると池上さんは、遠慮がちに誘いかけた。

『昼から、お素人のお弟子さまのお休みが重なって、3時間以上、時間ができてしまったんやけど……今日。……急やけど、光くん、気晴らしにい来いひんかなぁ?』

「行きます!」

自分でも驚くほどの即答だった。

『よかった。ほな、お稽古場の地図を送るわ。……舞台からでも、わかったで。光くん。……名前の通り、光り輝いて見えた。きらっきら。』

「え……見えたんですか?……あの……能面を付けてると、極端に視界が狭まるって……。」

それに舞台にはライトが煌々とさしている。

『うん。まあ、ほとんど見えへんけど。でも、光くんはわかった。隣の子も。』

ギクリとした。

とりあえず何か答えるべきなんだろうけど……僕は、ため息をついていた。

『……悩める青少年?まあ、おいで。愚痴ったら、気も晴れはるわ。』

池上さんは、からかうような口調でそう言ったけれど、ちゃんと懐の深さが伝わってきた。




2日連続の京都……と言っても、今日は京都の端っこ。

ちょうど昨日、あの天人の少女が示唆した宇治上神社の近くに、池上宗真氏のお稽古場の1つがあった。

せっかくだしお参りして行こうかな~と、地図を眺めながら電車を降りる。

平日なのに、いかにもな観光客がけっこういた。

えーと、橋を渡らないんだよな。

へえ……茶団子。

うまそう。

出しなに、おばあちゃんが池上さんへの手土産にと、ケーキを持たせてくれた。

帰りに、うちにこの茶団子を買って帰ろうかな。


雰囲気のある店舗を眺めてると、背後からイイ声で呼ばれた。

「光くん!?早かったなあ!もう着いたんや。」

池上宗真氏だ!