小夜啼鳥が愛を詠う

その夜、私はママのお手伝いをした。

わらびの灰汁(あく)抜きには、いくつかの方法があるらしい。
灰、糠、重曹と、どれを使ってもいいし、用いかたも、漬ける時間も温度も、多様らしい。

でもママは、シャキシャキした歯ごたえを残すため、じっくり一晩かけて煮立たせずに灰汁抜きするんだって。

「前もって聞いてたら灰を準備しといたんだけどねー。今回は重曹ね。」

「なになに?それ。なにやってんの?」
お風呂から上がってきたパパが、キッチンを覗きに来た。

「わらび採って来たの。」

そう言ったけど、パパには馴染みがないらしく反応が鈍かった。

「玲子さんに頼まれたの。明日、食べに来るって。章(あきら)さんの分も残しておくわね。お口に合うといいけど。」

ママがそう言うと、パパは上機嫌で笑った。

「なっちゃんが作るなら、なんでも口に合うよ。美味いに決まってるからな。わかった。明日は俺も早く帰るよ。」

パパの言う通りだ。
ママは、とにかくお料理がうまい。
料理家じゃないから、珍しい食材や凝った調理をするわけじゃない。
ありふれた材料を手抜きなしの丁寧な下ごしらえで美味し一品にしてしまう。

「ふふ。プレッシャーだわ。わらびご飯以外に何を作ろうかしら。」
ママは、楽しそうに思案していた。



ゴールデンウイーク明けの学校は、何だか変なテンションだった。
みんなあちこち遊びに行ってたみたい。

何となく日焼けした子の多い中、椿さんだけは抜けるように白く美しかった。
さすがだわ。

そんな中、相変わらず光くんは、私と登校はするものの、自分の教室には行く気もないらしい。
いつも通り、朝礼が始まる直前まで、私のそばにくっついていた。

「光くんは、今日は空手の日なのよね……。」
「うん。聞いたよ。薫と藤巻くんが、お邪魔するんだってね。ごめんね。世話かけて。」

光くんはそう言ってくれたけど、何となく他人事だった。

「ね。光くんも、来ない?お稽古終わってからでも。わらびご飯、残しておくよ?」

それでもがんばってそう誘ってみたけど……あえなく玉砕。

「今日はパパも遅いし、あーちゃんとおばあちゃんだけだと心配だから、僕は帰るよ。」

……そう。
まあ、そうよね。

がっくり。


チャイムが鳴って、担任の明田先生がやってくると、光くんは会釈してうちの教室を出て行く。

今日はどこに行くのかしら。