小夜啼鳥が愛を詠う

ワキ3人と地謡が話を進めて、シテの登場。

上品で美しい「若女」という能面をつけ、あでやかな唐織りの衣装を着流した里女が舞台にやってきた。

池上宗真氏だ。

あの低い朗々とした声が、高い澄んだ声に変わってる!

うーん、巧い!

確かに、池上さんは、すごいヒトだ。

……能面とかつらでお顔は見えないけれど……全くの別人……。

池上さんじゃなくて、ちゃんと山里にふさわしくない美しく高貴な女性だ。

自分が実は天人だと言ってからは……ほんっとに天人来てるよな、もう。

なるほどなあ。

見た目は何もわからない。

激しい演目でもないから、天女が憑依したところでわかりにくい。

でも確かに、池上さんじゃない。

まばゆいばかりに、やたらキラキラした美しい姿は、天冠のせいだけじゃない。

……すごいな。

本当に目の前で、見事に天女を憑依させて舞い謡う池上さんに、僕は心底感動した。

気がついたら、頬を涙がつたい落ちていた。

泣くところじゃないのに。

むしろ、ありがたい……尊い……。

……そうか。

心が洗われる……そんな気分?

芸のために霊を召還してるわけじゃない。

霊のほうが、池上さんという依代(よりしろ)を見つけてやってくるんだもんな。

池上さんは、舞台のうえで、霊が心のままに想いを放出するのを受け止めて代わりに表現しているのかもしれない。

少なくとも、池上さんは操られてはいない。

ちゃんとコントロールして、舞っている。


こんな風に……僕も、彩瀬パパを受け止めたい。

彩瀬パパの気持ちも尊重したい。

それが、あーちゃんへの未練なら、伝えてあげたい。

池上さんのように、ちゃんと自分を保ち続けられるかな。

具体的にどうすればいいのだろう。



最後に、地謡さんたちが短い文句を謡った。

附祝言(つけしゅうげん)というらしい。



「……終わった……。なんか……光くんのチラシの倍以上あったね……。」

さっちゃんは、ぐったりしていた。

「あー。そうだね。去年の段階では、『頼政』と『吉野天人』しか決まってなかったんだろうね。でも、これでも短いほうだと思うよ?」

そう言ったら、さっちゃんの笑顔がちょっと引きつった。