小夜啼鳥が愛を詠う

僕が返事をためらっている間に、彼女はさっさと踵を返して歩き出した。

僕は慌てて少女の後を追った。



会館に戻ると、先ほどの池上夫人が、やはり肩上げしたカワイイ着物の女の子と一緒にロビーで若い女性と立ち話をしていた。

こちらが、池上宗真氏の娘さんのようだ。

いつの間にか客席に戻ってしまったあの天人の話をした少女より、もっと幼いな。

夫人が僕に気づいて会釈してくださった。

僕も黙って頭を下げた。


横を通り過ぎようとして、若い女性に見覚えがあることに気づいた。

えーと……あ、そうだ。

さっき、見所であの金髪の外国人男性の隣に寄り添うように座っていたような気がする。

誰もが振り返りそうな美貌の外国人男性のツレとしては、ちょっと地味というか……まあ、普通の範疇の十人並みの容姿の女性だったな。

そんな失礼なことを思いつつ、席に戻った。


天人の少女の姿はなかった。

……トイレかな?


「おかえりなさい。わ。ありがとう。」

僕の持っていたコンビニの袋を見て、さっちゃんがうれしそうな笑顔を見せた。

「あ。うん。どっちがいい?お茶?炭酸水?」

「ウィルキンソン!」

さっちゃんは炭酸水を選んだ。

いつものようにキャップを開栓してから手渡す。

「ありがとう。いただきます。」

そう言ってから、さっちゃんはペットボトルを両手で持って口をつけた。

白い喉が上下に動く……それだけで、僕は……少し、反応してしまった。

さりげなくコンビニの袋で股間を隠して、お茶を飲んだ。

さっちゃんは煽情的なことは一切しない。

なのに、最近の僕は……さっちゃんの唇や、指、耳、うなじ……当たり前に露出しているところですら反応してしまうことが増えた。

ましてや、日増しに愛らしくふくらむ……気がする、胸元なんか……絶対に直視できない。

思春期真っ只中だな……。

鬱憤を他の女で晴らしたところで、さっちゃんへの想いは消えてくれない。

……いっそ、さっちゃんに幻滅したいよ……。



待ちに待った「吉野天人」が始まる。

セットの桜に、さっちゃんが小さな声を挙げた。

……もうすぐ桜も咲くだろうな。

さっちゃんに、京都の美しい桜を見せてあげたい。

それくらいは……許されるだろうか……。