小夜啼鳥が愛を詠う

続いて、狂言、そして仕舞が4曲。

さっちゃんは狂言では少し笑っていたけれど、オチのない結末に、
「え……終わり?」
と、ポカーンとしていた。

仕舞にいたっては、ひたすら睡魔との戦いだったようだ。

綺麗な眉間に縦皺が寄っているのが、かわいそうだけれど……かわいかった。


仕舞の後で25分間の休憩があった。

さっちゃんがお手洗いに立っている間に、近くのコンビニへ珈琲を買いに行った。


……おや。

さっきの着物の少女も買い物に来たようだ。

少女が僕に気づいて、会釈した。

僕も、微笑して会釈を返す。

それで終わり……と思ったら、彼女が綺麗な声で話し掛けてきた。

「ご旅行ですか?」

柔らかい京言葉だからか、子供なのにはんなり聞こえた。

「……いや、日帰り。神戸からだから。君は、京都のヒトみたいだけど……お能の関係者さん?」

人見知りモードは影を潜めていた。

「リスペクトはしてるけどお能は関わってません。……神戸ゆーたら、そんな遠くないですね。さっきぃの話、どうせ行かはるんやったら、宇治にしはったらどうですか?頼政の切腹したとこやし、お墓もあるし。」

さっきの話……ああ、そうか。

平安神宮の話のあと、さっちゃんが平安京の遺構を観光したいって言ったから、洛中にはないって言ったんだ。

醍醐寺か、宇治上神社か、平等院……

「聞こえてたんだ。……そっか。ありがとう。そうだね。ちょうど今回の演目に所縁(ゆかり)だね。吉野は遠いけど、宇治なら……。」

そう返事してから、開演前の彼女の会話を思い出した。

「もしかして、君は、ゴールデンウィークに長唄の『吉野天人』を舞うの?」

お能には関わってなくても、それに近い伝統芸能に深く関与してるのではなかろうか。

僕の疑問に、彼女は艶然とほほ笑んだ。

「聞こえてはったんですね。でも私じゃないんです。兄が、舞います。」

兄……。

ちょっと残念。

……何となく……彼女の天人を見てみたいと思った。

まあ、でもあと10年……少なくとも5年後ぐらい先でいいかな。


てか、お兄さんが長唄の舞踊を舞うって……珍しくないか?

女の子ならともかく、男が日本舞踊を習い事としてたしなむことってレアケースだと思う。

……日本舞踊か長唄に関係したお家の子ってことかな?