小夜啼鳥が愛を詠う

途中で言葉に詰まった僕に、池上さんは確認した。

『……死んだお父さまの意志に引っ張られて生きることに抵抗を感じてはる?……それとも……ご両親の期待に応えて、憑依されてると思い込もうとしてはる?』

言葉にされると、自分の不安と葛藤が陳腐なモノに感じた。

なるほど。

確かに、1人で抱え込んでいるより、ヒトと話したほうが楽になれるようだ。

『どっちにしても、あれやな。光くんは、イイ子やなあ。親の期待を裏切りたくないんやな。……よぉわかるわ。』

ハッとした。

ただの相づちじゃない、実感のこもった同意だった。

確かに、池上さんこそ、そういう生き方しかできないヒトなんじゃないか?

生まれる前から道を定められている人生。


そこに反発はなかったんだろうか。

『反発?ナンボでもあったわ。……でも、それ以上に、自分の血や、家や、祖父や……何より、能楽が好きやから。……君もそうやろ?ご両親が好きで、亡くなられたお父上も慕ってる。……むしろ、ラッキーって考えたら?』

池上さんはそう言って、ちょっと笑った。

『うらやましいわ。俺にも、祖父が逢いに来てくれたらいいんやけど。……寄って来るんは、恨み骨髄の亡霊ばっかりやで。光くんはいいなあ。逢えへんはずのお父上に逢えるって。ほんまに、うらやましいわ。』

「……そんな、『うらやましい』を繰り返されても……。」

何だか、妙なおかしさが腹の底からこみ上げてきた。

「まあ、確かに、他のモノは見えませんし、感じませんね。ラッキーですか?」

『ラッキーやな。亡霊の怨念は、きっついで。俺は、職業柄、身を任せて浸ってるけど。……お舞台の後、妻と娘に会って、やっと我に返ってるわ。霊が見えるくせに現実的やから、無意識に追い払ってくれるんや。……光くんにもそんな存在がいたら安心かな?』

池上さんにそう言われて、僕は該当者を頭の中で探した。

……両親……さっちゃん……薫……明田さん……ダメだ。

みんな、既に当たり前のように受け入れてしまってる。

参ったな……。




池上さんは電話を切った後で、携帯の番号とアドレスをメールしてくれた。

またいつでも連絡をくれたらいい、と、ありがたい言葉を添えて。

思った以上にイイヒトだったな。