小夜啼鳥が愛を詠う

正直な意見に、僕はうなずいた。

「うん。そうだね。でも、気に入っちゃった。」

僕は、そう言って再びその字を見つめた。

確かに、書家の文字じゃない。

でも、強い意志にあやかりたい。



今はともかく、そう遠くない未来、さっちゃんを守るのは薫の役目になるだろう。

僕が出しゃばるのは、それまでの暫定期間だけ。

その後は、さっちゃんは薫に任せるべきだ。

僕がいつまでも、騎士(ナイト)を自負すべきではない。

……だったら僕は、せめてさっちゃんの影を守ろう……。

飽きもせずに、小ぶりの色紙をじっと見ている僕を、さっちゃんは黙っていつまでも見ていた。




その夜、両親に入札の手続きを頼んだ。

「今年こそは落札できるといいな。」

お父さんは穏やかにそう言ってくれたけど、あーちゃんは眉間に皺を寄せた。

「最低落札価格に色つけただけではあかんかったもんねえ。今年は、3倍ぐらい出してみる?」

去年は3作品も入札したのに、結局1点も落札できなかった。

「どうかな。去年は有名人の作品だったけど、今回は若手の能楽師の色紙だし、大丈夫じゃないかな?」

そう言ってみたけれど、あーちゃんは去年の落選がよほど口惜しかったらしい。

「佐々木の猿の写真が3万円以上するとか、信じられんわ。」

……いつまでも、ぶつぶつと文句を言っていた。




二週間後、我が家に池上宗真氏の寸松庵色紙が届いた。

夫人からの美しい筆跡のお礼状とともに、宗真氏がシテをつとめる定期能のチケット2枚を添えて。

「相場よりだいぶ高い金額で入札してしもとったみたいやね。」

お礼状を読んで、あーちゃんが頭を掻いていた。

「まあ、いいやん。普段、物欲のない光が欲しがっとってんから。……よかったな。……まあ……がんばれ。」

お父さんは、色紙を一瞥して、僕にそう言った。

僕が、さっちゃんを陰から見守りたいと思ってることが伝わったようだ。

……お父さんも……頭がイイだけじゃなくて、ヒトの心を読むよなあ。

連珠の訓練で自然と身についたんだろうけど。


「うん。寝室に飾る。一生、大事にするよ。ありかとう。……お能、一緒に行く?」

家族の顔を見回して、聞いてみた。