小夜啼鳥が愛を詠う

とりあえず、その日を境に、さっちゃんは僕のものではなくなった。



さっちゃんを薫のものにする……。

そのために、僕はどうすればいいだろうか。






小学2年生になるタイミングで、僕ら一家は京都を引き払い、神戸に帰って来た。

残念ながら、さっちゃんとは別の小学校だ。

一人ぼっちで通ってみたものの、周囲の心配通り、僕はクラスに馴染むことができなかった。

そもそも人見知りの僕が転校生になるなんて、しょせん無理だったのだろう。


結局、小学校を卒業するまでずっと保健室や図書室で過ごした。


いわゆる「イジメ」にも、もちろん遭った。

ヒトに馴染めないところも、中性的な容姿も、女子にやたら好かれたことも、虐められる要因なことは間違いない。

でも僕は、校内の誰よりも狡猾な頭脳を持っていたし、少なくとも普通の同い年の男子より強かった。

残念ながら腕に覚えの空手で対戦するわけにはいかないけれど、まだその頃は大会にも出場していたので、好成績をおさめる度に全校生徒の前で表彰された。

僕の特技が周知されると、誰も迂闊に手を出して来れない。

その分、陰湿な嫌がらせや、幼稚な仲間はずれが続いた。

クラスの半分が犯人で、残りの半分は役に立たない傍観者。

そんな教室に僕の居場所があるわけなかった。




小学6年生の一年間だけは、薫と一緒に登校できた。

薫は、僕とは正反対。

痩せた小さな身体に似合わない迫力と明るさを身にまとい、いつも周囲を圧倒させ、振り回した。

そして、薫といるだけで、僕自身も強く居られた。

兄として、小さな弟を守らなければいけない……と。


……薫は薫で、他人と交われない僕の面倒をみてくれていたけど。





中学生になった。

さっちゃんと同じ中学だ。

かつて僕のものだった少女は、美しい乙女に成長した。


まずい。

とても放置しておけない。

彼女の美貌も、優しい誠実な人柄も、思春期の男子が惚れないわけがない。


そうだ。

さっちゃんは、魅力的すぎる。

薫が成長するまで、さっちゃんを他の男に奪われてはいけない。

最初はそんな使命感が強かった。

でも、一歩校内に足を踏み入れると、黒い制服の集団に圧倒されて、僕は本気で恐怖を感じた。

情けないようだが、さっちゃんだけが、救いだった。