小夜啼鳥が愛を詠う

5歳になる年の夏休みに、弟の薫が生まれた。

その日、さっちゃんの家族と六甲に遊びに行っていた僕には、薫の泣き声が聞こえた気がした。

……勘が鋭い……だけではない、見えない力に教えてもらえたのだろうか。

すぐに病院に駆け付けた。

真っ赤な顔で元気に泣き叫ぶ赤ちゃん……。

不思議な気持ちがした。

弟……?

僕と半分だけ血の繋がった存在……。


いや、それだけじゃない。

お父さんとあーちゃんの血を正しく受け継いだ子。


そうか……。

薫の存在が、はじめて、僕たちを家族に成し得るのかもしれない。

あーちゃんと僕、お父さんやおばあちゃんを繋ぐ、鎹(かすがい)の役割を担う子。

小門(こかど)の家の、ただ一人、正当な後継者……。

この気持ちを何と表現すればいいんだろう。

愛しい、とか、かわいい、とか……それだけじゃない……。

まるで奇跡のように尊い。

大切な大切な、僕の弟。

僕は、自分でも驚くほど、薫を溺愛した。



刷り込みによる記憶の上書きなのか、はたまた、本当に死んだ彩瀬パパの記憶が僕に託されているのか……あーちゃんへの想いは単なるマザコンとは異なったものだと思う。

でも薫への愛情もまた特別なものだ。

僕は、5つ年下の弟を守りたいと、強く思っていた。



……その頃、僕は……既に自分の容姿がある種の性的マイノリティに犯罪行為の欲望を抱かせるものだということを理解し始めていた。

実際に、嫌な目に遭いかけたこともある。

しかし、間一髪、事なきを得てきた。

空手を習っていたとは言え、まだ年端もいかゆ幼児のこと。

おそらく、目に見えない大いなる力に守られていたのだろう。

……彩瀬パパは、僕の守護神なのかもしれない。




いつからだろうか。

薫が、さっちゃんにやたらに執着し始めたのは。

僕ら家族はみんな「さっちゃん」と愛称で呼ぶのに、薫だけが呼び捨てにしていた。

「さくらこ」と、偉そうに。


最初は、僕があーちゃんあーちゃんと、母親にまとわりついて独占しがちなので、その分、薫はさっちゃんに甘えるのかと思った。

でも、どうやら、薫はさっちゃんに母性を求めているわけではないようだ。

むしろ、崇拝?

僕とさっちゃんが小さな恋人たちとして、周囲のオトナに扱われることに対して、薫はあからさまに憤懣していた。