「イザヤトンダ。イザヤオチタ。」

いざやくんは、目をぱちくりさせてそう話した。

「……いざや~~~。」

泣きそうな顔でまいらちゃんが、薫くんに向かって手を伸ばす。

「おう。気ぃつけぇや。こけたら、低い鼻がますます低くなるで。」

薫くんは、そんなことを言いながら、いざやくんをまいらちゃんに返した。

「薫くん!」

年頃の女の子にデリカシーのないことを……。

でも、まいらちゃんは、にへら~っと笑った。

「孝義くんにも似たようなこと、よく言われる~。」

……坂巻さんも……ひどいなあ。

まあでも、まいらちゃん自身が傷ついてないなら、いっか。


「……お嬢さま。お着物のたもとが。……鳥は……膝の上で……。」

カメラマンさんが、まいらちゃんのポーズと、いざやくんの位置を指示する。

「はい。よろしいですか。笑ってください。えーと……。鳥……。」

「いえ。鳩が出ますよ、です……。」

遠慮がちに由未さんがつぶやく。

すると、いざやくんが、カメラマンさんと由未さんの口跡を真似た。

「ハイ、ハトガデマス、ヨ。」

ぶはっ!と、おじいさまが豪快に笑う。

おばあさまが、声を上げて笑う。

まいらちゃんが、いざやくんに笑いかけてキスする。

由未さんが吹き出す。

天花寺さんが、由未さんの肩を抱き覗き込むように屈んで微笑む。

義人さんは、のけぞって笑う。

希和子さんが口元に手を当てて笑いをこらえる。

そして、薫くんは……どさくさ紛れに私を抱きしめた。



もちろん、撮り直した普通のおすまし写真も、作り笑い写真もあるけれど……自然な笑顔がいっぱいのこの写真が、私たちが始めて仲間入りした記念の家族写真となった。



(了)




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第11章3節「野木さん、結婚する」でした。

桜子ちゃんのお話はここまでです。

お付き合いありがとうございました。



残る蛇足は、あと1つ。

視点を変えて、光くんのお話です。