小夜啼鳥が愛を詠う

薫くんは、物心ついた時から、背伸びして、小さな手を目一杯広げて、光くんと私を守ろうとしてくれていた。

それがよくよくわかってるから……私は笑顔で薫くんについて行く。

「桜子。ほら、そこ。届く?危ないし、俺が行くわ!」
背も腕もまだ私より短いのに、体を張って採ってきてくれる。

「ありがとう。」
私の謝辞は、薫くんにとっての最高のご褒美らしい。

「かっこつけて。落ちんなよ。」
藤巻くんは、そんな私たちに、多少呆れたようだった。



翌日はゴールデンウイークの最終日。
お昼過ぎに光くんパパの車で別荘から戻ると、薫くんと藤巻くんは家に入りもせず、収穫したわらびを持って出かけようとした。

「あら、どこ行くの?」
迎えに出てくれたおばあちゃんに対して、さすがに玲子さんの名前を出すことはできないらしい。

「藤やんとこ!桜子も、来い!」

……ああ、やっぱりそうなるのね。

「光くんは……行かないよね?」
半ばあきらめモードで一応そう聞いてみた。

「うん。荷解(にほど)きって、けっこう大変だから。あーちゃんを手伝うよ。さっちゃん、光たちが暴走しないように、見ててくれる?」

めっちゃ笑顔でそう言われた。

まあ、そうなるよね……とほほ。



「桜子!そっちちゃうで。こっちこっち。」
2人に少し遅れて小門家の敷地を出た私は、件(くだん)の山荘へ行くつもりで左に進んだ。
ら、右側から薫くんが私を呼び止めた。

あれ?

「今日は山荘じゃないの?」

薫くんが駆け寄って私の手を取って、言った。
「もう研修期間はとっくに終わったからな。」

あの時は研修期間だったの?

「寺務所にいると思う。せやし、こっち。」


藤巻くんの案内で向かった先は、広い敷地にいくつもの立派な建物。
まるで大学のキャンパスみたい。

「お寺に見えないね……。」
ついそう言っちゃった。

「御堂はみんな震災で倒壊してね。……がっかりさせてしまったかな?」
不意に背後から、低いイイ声でそう返事されてしまった。

驚いて振り返ると、口髭のセクシーな僧衣のおじさんが立っていた。
ロマンスグレーがたまらなくお上品さと色気に拍車をかけてる!

「お父さん。ただいま。」
藤巻くんが笑顔でそう挨拶した。

えーと、お父さんってことは……ここの一番えらいひと?

しまった!
余計なこと言っちゃった!

ばつが悪くて、私は黙ってお辞儀した。

「御院(ごいん)さん、こんにちは。こいつ、桜子。かわいいやろ?」
隣で薫くんがそんなことを言い出した。