小夜啼鳥が愛を詠う

「うん。びっくりするぐらい、好意的で親切でしょ?……おじいさまは、もっと酷いからね……。」

そう言って、私は薫くんの腕にきゅっとしがみついた。

「怖いんか?」

薫くんにそう聞かれて、私は首を傾げて……うなずいた。

「うん。うれしいし、ありがたいけど、怖い。人生をひっくり返されそうな……。」

会社のことだけじゃない。

関わりなかったはずなのに、まるで近い親戚のように扱われ始めてる。

まいらちゃんの知るところとなった後は、完全に家族に取り込まれるんじゃないだろうか。

足元から掬われてしまう恐怖に怯える私を薫くんはそっと抱き寄せた。

「心配せんでいい。桜子の実家が増えるぐらいの気持ちでいとき。俺がおる。ずっと一緒や。何も変わらん。……背負わなあかんもんが増えたとしても、俺がやる。」

……薫くん……ちゃんと覚悟してる……?

まだ未成年なのに……私より5つも若いのに……いっつも私を守ろうとしてくれる。

小さい頃から変わらない。

……そうね。

何も、変わらない。

私は、やっと息をつけた気がした。

「うん。……ありがとう。よろしくお願いします。」

ほっとしたら、全身の力がいい感じに抜けた。



路面電車はいつの間にか住宅街を縫うように走り、観光地嵐山に到着した。

観光客いっぱい!

人の流れに逆らい、小道を突き進む。

いつの間にか、周囲の人の服がフォーマルになっていた。

この先は、同じ目的地に向かう人たちばかりかな。

「あれや。ほら、桜のお城!」

薫くんが指差した。

なるほど、木々の向こうの丘はピンク一色。

そして、西洋の城館のような威圧感たっぷりの建物。

「桜のお城……ね。」

納得。


門前の受付に向かうと、芦沢さんが声をかけてくださった。

「桜子さん。薫さん。お疲れさまです。こちらへ。」

「ありがとうございます。……招待状を持ってなかったので、心細くなってたところでした。盛況ですね。何人ぐらいお招きされるんですか?」

「会社関係だけで300通ですが、最近はご家族連れが多いので千人以上は入園されるようです。ウェルカムドリンクはいかがですか?」

芦沢さんに尋ねられて、私は手を振って断ったけど、薫くんは他人様が飲んでる椰子の実に目が釘付け……まあ……珍しいよね。