小夜啼鳥が愛を詠う

「どうぞどうぞ。他にもコンサートとかミュージカルとか、野球とかサッカーとか……。原さんに言えばもらえるよ。」

義人さんは、私に向けてそう言った。

「……ありがとうございます。」

「ほな、能楽師にも知り合い居てる?……俺、信長みたいに『敦盛』舞いたい。」

「薫くん!?」

突然そんなことを言い出した薫くんにびっくりした。

薫くんは、言葉使いをたしなめられたと思ったらしく、慌てて口をつぐんで、それから言い直した。

「どなたかお知り合いに能楽師がおられたら、ご紹介していただけませんか?」

急に敬語になったのがおかしかったらしく、希和子さんが笑った。

義人さんも苦笑まじり。

「……俺らにはそんな気ぃ使わんでいいよ。まあでも、社長には最初はそれぐらいの方が無難かな。」

「わかった。……で?おる?能楽師。」

「……いるいる。今日、聞いといたげるわ。稽古場とか諸条件。……さっちゃんも?習う?」

私には、まったくそのつもりはなかった。

でも、薫くんがキラキラの瞳で私を見る……。

……これも……一緒に習いたいんだろうか。

うー。

「……とりあえず、薫くんのお稽古を見学してから……考えていい?」

てゆーか、お能なら、私より光くんのほうが興味あるんじゃないかなあ……

「うん。そうしたほうがいいと思う。……ちなみに、薫くん?信長の舞った『敦盛』は、能楽じゃなくて幸若舞だから、違うものみたいよ?」

希和子さんがさらりと重大な情報をくれた。

「え……。」

絶句する薫くんに、義人さんが目尻を下げた。

……なんて言うか……和気藹々?

こんな風に仲良く話せるようになるとは思わなかったな。

感慨深くて、私はこっそり涙を指で払った。



嵐電の乗り場近くで、私達は下ろしてもらった。

「じゃ。ここで。緊張する必要ないし。……ゆっくりしてって。夕方なったら道もすくから、送るし。」

「え!いいですよ!帰りは電車乗り継いで帰る。……ねえ?」

薫くんにそう振ったけれど、
「無理無理。持ち切れないほどお土産準備してるから。……できたら、私達が帰宅するまでゆっくりしてて。」
と、希和子さんに言われてしまった。



「……桜子が、出向初日に泣いて帰ってきた意味がわかった気がする。」

電車に乗ってから、薫くんがそうつぶやいた。