小夜啼鳥が愛を詠う

「玲子さん、こんにちは。すみません。……あ……。」

私を見て、玲子さんに向けた親しげな笑顔が能面のように固まった。

やばい。

どうしよう。

……この場合、敢えての笑顔で自分からフレンドリーに振る舞うと、図々しいかもしれない。

てか、明日、園遊会で顔を合わせないように……とかって、おじいさまたちが気遣ってらしたのに……前日にバッチリ逢っちゃったよ。

ドキドキしてると、玲子さんが間に入ってくれた。

「希和ちゃん。さっちゃん。前に逢ったことあるって言ってたよね?今、オタクの会社に出向してるんだって。仲良くしたげて。」

「はい!春秋先生と野木さんの結婚式で!お会いしました!……よろしくお願いします。」

……それ以外に、なんて言えばいいのー?

泣きそう。

めっちゃ困ってるのが伝わったらしい。

希和子さんは苦笑した。

「もっと前にも……逢ってるんです。覚えてはりませんか?15年ぐらい前やけど。うちの高校の体育祭で……私、指を骨折して……桜子ちゃんのお母さまに病院まで送ってもらったんです。」

「え……。」

何度か聞いたことのあるフレーズだった。

バラバラだったパズルのピースがぴたりとはまってく……。



……危ないよ、桜子……走っちゃいけないよ……桜子……走っちゃいけない……桜子……



あれは……今の義人さんによく似たあのヒトは、おじいさまだった……。

あの時……暗い病院の廊下を走って……ぶつかったのは……。

あれが、希和子さんだったんだ……。

「何となく、思い出しました。……そうでしたか……。」

「ほら。あの時の骨折の痕。歪んでしまって。……指輪も取れないし、別の指輪を重ね付けすることもできないの。」

そう言って、希和子さんは細い白い左指を見せてくれた。

確かに、関節が他の指よりは少しだけ大きかった。

「でも、結婚指輪が取れないって……逆に素敵ですね。」

思ったままに、そう言った。

……ら、希和子さんは目を見開いて、マジマジと私を見た。

しまった……。

なんか、デリカシーなかった?

お前が言うな、って感じ?

どうしよう……。

脂汗が流れるのを感じて困ってると、希和子さんがやるせなさそうに笑った。

「……同じことを言われたわ……主人に。」