小夜啼鳥が愛を詠う

「……まあ~、既婚者には見えないわねぇ。ますますイイ男になっちゃって。……さっちゃん、ちゃんと見張っときや。」

玲子さんはけっこう真面目にそう言った。

「じゃ、さっちゃん、行こっか。ご挨拶とお手伝い。……あ、さっちゃんは観ててくれたらいいわよ?」

「え?いや、手伝いますけど。……どなたに?……あ、お茶の先生?えーと、今日、何も持ってきてないんだけど……手ぶらでご挨拶って、失礼じゃない?」

既に歩き出した玲子さんを追う。

「いらないいらない。最初のお稽古の時でいいから。これから楽しみね~。」

玲子さんも、薫くんも、本当に楽しそう。

私だけが、緊張で変な汗をかいていた。


玲子さんが連れていってくれたのは、古い素敵な洋館だった。

「てか、お寺じゃないよね?ここ。隣の学校の敷地みたいだけど……。」

「うん。でも、一緒一緒。コミュニティーハウスなの。お寺の婦人会や青年会の文化サークルの溜まり場。大学生の仏教系サークルも利用してる。さ、どうぞ。もう始めてらっしゃるかな……。」

「……おじゃましまぁす。」

中を覗きうかがうように入った。


いらっしゃい


と、綺麗な声で迎えてもらった……誰もいないのに。

うわぁ。

この感覚……。

「……高子(たかいこ)さま?」

恐る恐るそう聞いてみた。

くすくすと、鈴の転がるような笑い声が周囲から響き渡った……。

やっぱり。

この洋館って……高子さまの住処(すみか)なんだ。

「あら、さっちゃん、見えるの?いいわねー。……はいはい。今日も仲良くしてくださいねー。」

玲子さんは、見えない聞こえない高子さまにそう挨拶して平然としてる。

「玲子さん……動じないねえ。……ご無沙汰してました、高子さま。」

返事はなかった。

……よくわからないけど、以前はほんの一瞬お姿を見ただけ……今回はわずかな声だけ。

まあ、いいか。

帰れ、とは言われなかったし。



「はーい。ごきげんよう。あら、希和ちゃん。もう始めてたの?手伝いに来たわよー。」

ドアを開けながら玲子さんがそう言った。

……きわちゃん……って……希和子さん?

ひょこりとのぞくと、やっぱりそうだった。

義人さんの奥さまの希和子さんが、地味な絣の着物でお抹茶を篩(ふる)っていた。