小夜啼鳥が愛を詠う

最終日の前日、朝から薫くんたちに引っ張られた。
てっきりまた海に行くのかと思ったら、今度は裏の山へと連れて行かれた。

「わらび、採るぞ!」

わらび?
山菜の、わらび?

「わかるの?え?採ってどうするの?食べるの?」

驚いてそう尋ねると、薫くんは得意げにうなずいた。

「藤やんが、慣れとーねん。な。」

藤巻くんがちょっと照れくさそうにうなずいた。
「父の郷里でよく採ったから。わらびご飯が好きで。」

わらびご飯?
なんか、美味しそう。

「えー。私も食べてみたい。」

そう言ったら、藤巻くんがうれしそうに微笑んだ。

「ほな、お姉さんも一緒に採ろう。帰ったら作ってって頼んでみる。」
「ロシニョール?作れるん?」

薫くんが、突然の謎の言葉を使った。

ロシニョール?
なに?

いや、何か、聞き覚えあるような……。

なんだっけ?

意味もわからない。

でも、藤巻くんにはちゃんと伝わったらしい。
「うん。作り方、調べてくれるって。料理、下手くそらしいからあんまり期待できひんけど。」

お店か何かかしら?

「薫くんも、ご馳走になってるの?」
よくわからないまま、聞いてみた。

薫くんはニッコリ笑った。
「うん。お菓子くれよーねん。せやし、お返しに採ってあげるねん。」

ますます意味がわからない。

「ロシニョールって?なぁに?」

私は、薫くんにそう聞いてみた。
薫くんは、キョトンとした。

「桜子の友達やろ?歌のおばちゃん。おばちゃんて呼んだら怒るし、玲子って呼んだら光が不機嫌になるから。」

え?
玲子さん!?
薫くん、あれからも玲子さんと逢ってたの?

……知らなかった。

「いや、お兄さんは、玲子さんを呼び捨てにするのがあかんてゆーとるんやと思うで。」

藤巻くんがそう言うと、薫くんは不思議そうに首を傾げた。

「なんで?」

……そうね。
薫くんには、今さらかもしれない。
5つも年上の光くんのことも、私のことも呼び捨てだもんなあ。

「日本では、普通は、自分より年上のヒトのことを呼び捨てにしないものよ?名前に『くん』とか『さん』をつけるものよ?」

私がそう言うと、藤巻くんも隣でうんうんと激しくうなずいていた。
さすがにお寺のご子息は、ちゃんと教育されてるのだろう。

「桜子も光も、今まで何も言わんかったやん」
薫くんはそう言って口をとがらせた。

「それは……仲良しだから。」

私は、たぶん言葉を誤った。
でも、自分を尊重しろ!と言う論調になってしまうのが嫌で、ごまかしてしまった。

すると薫くんは、うれしそうに笑った。
「ほな、いいやん!俺、玲子とも仲良しやで!」

……ああ……違うのよ、そうじゃないのよ、薫くん。

難しいわ。

何て言えばいいんだろう。