小夜啼鳥が愛を詠う

お昼前には帰宅できた。

入学式は市の施設で挙行され、そこから大学まで芦沢さんが運んでくださり、門前で撮影もしてくださった。

薫くんは昼からの新入生ガイダンスのためにキャンパスに残った。

私は、スーツに着替えて、午後から出勤した。

「あー。やっぱり着替えたか。」

挨拶に行くと、おじいさまは明らかにガッカリしていた。

「はあ。」

だって仕事にならないし。
てか、普通は職場に着物で来ないでしょ。

「……まあ、いいか。明後日まで我慢すれば、また着てくれるな?」

「えーと、雨でなければ、そのつもりです。今日のとはまた違う色留め袖の予定ですが。」

「今のところ雨の予報は出てないが、念のために雨対策はしておくので、安心して着て来てくれ。」

……ずいぶん楽しみにされてたんだなあ。

「わかりました。ありがとうございます。」

「マスターと光くんが心配してたよ。次にあっち方面に出張する時は、桜子も一緒に、と言ってしまった。勝手に、すまないな。」

おじいさまは、いたずらっ子のようにそう言った。

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」

そう言ったら、おじいさまは首を傾げるように私をうかがい見た。

何か、怪しまれてる?

たじろがないように、私も首を傾げておじいさまを見つめてみた。

……やっぱり義人さんに似てる……。

「会社以外で話せば、私にも敬語を崩してくれるんだろうか……。」

おじいさまはそれだけ言って、くるりと椅子ごと四分の一回転すると、すっくと立ち上がった。

「疲れただろう。ゆっくりなさい。」

「ありがとうございます。では、失礼します。」

私は、敢えて平然と挨拶して辞去した……けど、おじいさまの言葉に戦慄していた。

昨日の義人さんとの会話をご存じなのだろうか。

それとも、パパや光くんと話したことに起因する言葉なのだろうか。

……喰えないヒトだわ……やっぱり。