小夜啼鳥が愛を詠う

ほどなく、原さんが来た。

「ありがとうございました。義人さんに、教えていただくことができました。」

すぐにそうお礼を言った。

原さんはクールに会釈して、それから言った。

「ご家族の入学式が明日とうかがいました。一生に一度のことですし、どうぞご出席してください。」

え!

義人さん、もう原さんに言ったのかしら。

早いなあ。

「でも、平日ですし、家族って言っても子供じゃないし……」

断ろうとしたけれど、原さんは笑顔で強硬した。

「僭越ですが、子供じゃないからこそ、桜子さんも行かれたほうがよろしいかと。それでは時間給をとられて、用事が済まれましたら、ご出勤されてはいかがですか?社長に、入学記念のお2人のツーショット写真でも差し上げてくだされば、社長も喜ばれますでしょう。」

……うわぁ。

めんどくさー。

「写真……ですかぁ……。」

「よろしければ、カメラマンを手配いたします。」

「え!そんな、大げさな!いいです!自撮りします!」

「それでは、まともなお写真にはなりませんよ。」

……原さん、親切なんだろうけど……重い……。

「では、そのへんのひとにシャッターを押してもらいます。」

そう言ったけど、原さんは折衷案を提示し、それ以上は一歩も引いてくれなかった。

「それでは芦沢を同行させましょう。送り迎え兼カメラ係に使ってください。」

……余計、気ずつないわ!



翌朝、本当に芦沢さんが車で来てくださった。

仕方なく私は、薫くんのリクエストで桜色の訪問着を身に付けた。

おばあちゃんに教わって、お太鼓なら、自分で結べる。

しかも薫くんが、まるで花街の男師さんのように手伝ってくれる。

たぶん、綺麗に着付けられたよね?

髪は、夜会巻きにして、赤い漆塗りの扇の簪(かんざし)で飾った。

「地味じゃない?おばさんくさくない?けばくない?」

紺色のジャケットを羽織った、いつもとちょっと違う薫くんが、私をじっと見る。

その瞳がキラキラ輝き、愛しそうで、うれしそうで……こっちまで幸せになってきた。

「めっちゃ綺麗。やっぱり桜子はかわいいわ。日曜は真珠の簪にしような。」

……よくわからないけど、こと着物に関しては、薫くんのほうがこだわるので、私は素直にうなずいた。

薫くんは満足そうに、私に手を差し出した。

「ほな行こか。芦沢さん?待ってはるんやろ。」

「うん!お行儀よくね。ちゃんとご挨拶してね。」

私は、何度もそうお願いして、薫くんに手をゆだねた。