小夜啼鳥が愛を詠う

そう言えば、義人さん、さっきからママの名前を普通に出してるけど……たぶん、他のヒトには、そういうわけにはいかないよね?

25年間、心に秘めていた思い出を、私には語れるってことかな。

もちろん、私の知らないママだから、私にはすごく新鮮。

まるで、秘密の共有……。

ママのことを話してると、同じ時間を過ごしてきたかのように、家族だったかのように錯覚しそう。

おもしろいな……。


桜をじっと見つめてると、ノックなしにドアが開いた。

「……製氷機の氷しかなかった。……あ。それ。……春秋くんの傑作。」

義人さんはそう言って、ちょっと目を細めた。

「ええ。私は、うちに置いてきましたけど、やっぱり好きです。」

「俺も。……今度は、さっちゃんの桜を描いてもらおうか。明るい、春の光をいっぱい浴びて、キラキラしてる楽しそうな桜を。」

義人さんは、そんなことを言いながら、氷を大きめのグラスにいっぱい入れて、紅茶を注いだ。

……あれ?

アイスティーなの?

最後にさっきのポアラーを刺したレモンをギュッと握ってたっぷり垂らす。

爽やかな酸っぱい香りが、部屋中に広がった。

「はい。どうぞ。……ストローはないけど。」

「……いただきます。」

恐る恐る、鼻を近づける。

あれ?

あまり正露丸臭くない。

冷たいから?

グラスに口を付ける。

……美味しい?

え?

何で?

あんなに、強烈な正露丸が、むしろちょうどいいアクセントというか……香ばしい美味しいフレーバーティーになってる。

けっこうな量のレモンに負けてないというか、バランスがいいのかもしれない。

「どや?」

まさにどや顔で、義人さんは聞いた。

「美味しい……。嘘みたい。」

そう返事したら、義人さんはうれしそうにほほえんだ。

……かわいい……。

18歳も年上の、それも、実の父親をかわいいって思っちゃった。

参ったな……。

知れば知るほど、素敵なヒトだ。

顔だけの、肩書きだけの、薄っぺらいイケメンじゃないよなぁ。

……13歳も年上のママと何年もつきあってたんだもんね……。

じっと見つめられて……うれしくて、頬が緩む。

つきあいたてのバカップルみたい。

気恥ずかしくなって、サンドイッチに手を伸ばした。