小夜啼鳥が愛を詠う

違う。

こんな話をしても……ざわついた心はおさまらない。

そうじゃなくて、私は……。

竹原さんが、そっとハンカチを差し出してくれた。

指先が、ハンカチではなく、竹原さんの指に触れた。

胸が……体の奥が、甘く疼いた。

竹原さんはハンカチを私の目元へとあてがってくれる。

その腕に、私は触れて……頬ずりした。

背中に、竹原さんの手のぬくもり。

……もっと……。

変則的に、ゆっくりと形を変えて……2人はぴったりと重なった。

竹原さんの腕の中にすっぽりとおさまると、不思議なぐらい心が満たされた。

ずっと……こうしてほしかった……。

言葉はいらない。

ただ、抱きしめてほしかったのかもしれない。

ぎゅーっと……強く……強く……。

あ……この香りだ……。

甘い……不思議な甘い香り……。

男性用の香水じゃないみたい。

オレンジのネロリに近いんだけど……少し違う。

幸せな香り……。


「竹原さんは……幸せですか?」

嗚咽が止まり、涙が止まっても、竹原さんの腕に抱かれてることが幸せで……頭がお花畑になっていたかもしれない。

そんなことを聞いてしまってから、自分の暢気さに気づいた。

「あ。ごめんなさい。……私みたいに単純じゃないですよね。ご家族も会社もあるのに……。」

慌てて顔を上げてそう言った。

すぐ近くに竹原さんのお顔。

見とれちゃうなあ……。

竹原さんも、そう。

私を見つめる瞳が甘くて……。

「……今は、微妙。さっちゃんが綺麗でかわいすぎて、ちょっと、つらい。」

そんな風に言われて、私は恥ずかしくなったけれど……自分の中にも同じように複雑な気持ちがあることに気づいた。

「わかるような気がします。私も……竹原さんが素敵すぎて、つらいです。野木さんの結婚式で初めてお会いした時は目が放せなくて……光くんには、浮気と怒られました。」

ぶっちゃけすぎた?

でも竹原さんは、笑ってくれた。

ホッとした。

「こんなおっさんを誉めすぎ。ますます、甘美な毒に侵されて、がんじがらめになるわ。浮気どころか、夢中になってしまうで。」

冗談のように言ってるけど、本気なことはよくわかった。