小夜啼鳥が愛を詠う

「しぃっ。入って。」

声にならない声でそう言って、竹原さんは私の手を引いた。

「廊下にカメラとマイク設置してるんや。エレベーターにも。……社内は、トイレの個室と役員室ぐらいしか記録されてへんとこないから。」

え!

そうなの!?

びっくりしてると、竹原さんはさらに続けた。

「役員室も、パソコン、電話、エアコン、室内灯……全て管理されてる。携帯も。」

「……わかりました。気をつけます。」

神妙にそう返事したら、竹原さんがふっと笑った。

「さっちゃんは、普通にしてたら大丈夫や。」

……さっちゃん、って呼ばれた……。

何だろう……この感じ……。

まるで、ちっちゃい女の子に戻ったような……甘えたくなるというか……。

「慣れた?」

ソファに座るよう促されて……少し迷ったけど、はす向かいに座った。

「いえ。……まだ戸惑ってます。扱いがよすぎて……。親戚も、おじいさまとお話するたびに、増えて……。」

「あぁ。家系図が欲しいって?……ややこしいもんな。」

原さんから聞いたのかな。

「……はい。それに、自分がどう紹介されるのかも疑問なので……居方(いかた)がわかりません。」

正直にそう言うと、竹原さんの瞳が翳った。

「ごめんな。でも堂々としてて。さっちゃんにはひとっつも後ろ暗いとこないんやから。」

全て自分が悪い……竹原さんがそう思ってることが、明確な言葉になくてもひしひしと伝わってくる。

「……母から……分をわきまえるよう言われました。竹原さんの奥さまにとっては、母も私も……忌むべき存在でしょう?」

卑下してるつもりはない。

でも、なんだか息苦しくなってきた。

竹原さんは息をついた。

「夏子さんらしいな。潔すぎ。オトコマエすぎ。でも、ちょっと違う。家内は、そりゃ、俺に対しては文句も不安も怒りも諦めもあるけど、さっちゃんに対しては、うらやましいらしいわ。美人で。」

「……容姿……ですか?」

言ってて、笑えてきた。

何だ、それ。

私の周囲はみんな美人だったり、かわいかったり、かっこよかったり……光くんに至っては光り輝く美貌だから、ことさら自分の容姿に自信を持つことはなかった。

けど、確かに十人並み以下の容姿の女性の気持ちはわからない。

容姿より中身のほうが大事……と言うのは、綺麗事なのだろうか。