小夜啼鳥が愛を詠う

翌日からも、私は原さんの管理下でおじいさまの会社について学んだ。

ランチはおじいさまと、出かけたり、社長室で食べたり。

でも、肝心の……一番逢いたい竹原さんとは、あれっきり。


「竹原……義人さんは別の社屋に出勤されてるんですか?」

原さんにそう尋ねたら、笑われた。

「いえ。毎日、同じフロアの隣のお部屋に出勤されてますよ。」

「隣?」

びっくりした。

聞いてない。

どっち?

思わずキョロキョロすると、原さんは半笑いで南の方角を指差した。

こっち!

「……あの!……この資料について、いくつか確認というか、質問したいんですが!……竹原……義人さんに……。えーと……可能ですか?……ご迷惑でしょうか……。」

勢い込んでみたけど、途中で不安になってしまった。

私、何を必死になってるんだろう。

落ち着け。

頬が熱い。

もう。

バレバレ。

恥ずかしいよぉ。



たっぷり時間をおいてから、原さんが言った。

「もちろん問題ありません。……今日は昼から、社長の外出に芦沢が同行します。気がねなくお話しできるのではないかと。」

「ありがとうございますっ!」

私は思わず立ち上がって、原さんにお辞儀してお礼を言った。

「……必死ですね……。」

原さんのつぶやきに、私は苦笑した。

「本当ですね。あまりにもお会いできないので、母を訪ねて三千里のマルコの気分になってました。」

すると原さんはニヤリと笑った。

「児童文学ならけっこうですが。私はまた、てっきり、アナイス・ニンかと……。」

「……おもしろがってます?煽ってません?」

何を言い出すかなあ?

ちょっと、イラッとした。

よりによって、アナイス・ニンって。

私、そんなつもりないもん。

「まさか。釘を刺してます。」

原さんはそう言いながらも半笑いだった。

……絶対!おもしろがってるし!


アナイス・ニンは赤裸々で膨大な日記を残した著名な女性作家だ。

重婚や、著名作家夫妻との性生活などを赤裸々に綴り評価されている。

でも、原さんが言いたいのは……アナイス・ニンは幼少期に離ればなれになった父親と再会して……性的関係を持ってる……。