小夜啼鳥が愛を詠う

「俺らも久しぶりやで。なあ!」
薫くんが私の手を強く握ってぶんぶんとぶん回しながらそう言った。

「うん。去年の夏に3日ほど来たけど、泳げなかったもんね。」

昔から長期休み、特に夏休みは別荘で一緒に過ごすことが多かったけれど、光くんたちのパパとママが会社で働くようになってからは滞在日数が激減した。

近年は、ゴールデンウイークとお盆休みだけになってしまった。

「高校生になったら、好きに使っていいわよ。桜子ちゃんも。友達も誘って旅館代わりに利用してくれていいから。」

光くんママはそう言ってくれたけど、私はついつい夢想してしまう。

いつか光くんと2人きりでこの別荘にお泊まりして……キャーッ!
……見果てぬ夢、だわ。



須磨では、光くんに勉強を教えてもらったり、囲碁や連珠をすることもあったけど……薫くんに引っ張られることが圧倒的に多かった。
私達は朝から晩まで浜辺ではしゃぎまわった。


「あーちゃんは?」
その日、お昼時に別荘に帰ると、光くんママがいなかった。
光くんは不安そうに、キッチンでお料理してくれてる光くんパパに問うた。

「会社。勝手に休日出勤中の社長から、資料を紛失したって連絡があってな。……昼飯、パスタでいいよな?」

光くんパパにそう聞かれ、私と薫くん、藤巻くんはうなずいたけど、光くんはあからさまにがっかりしていた。

「ずるいよ、おじいちゃん。ずーっとあーちゃんと仕事してるくせに、せっかくの休みまで。……いつも通り、海外旅行してくりゃいいのに。」

あら、ほんとだ。

光くんのおじいちゃん、つまり、私のパパの親友の小門成之さんは、お正月、ゴールデンウイーク、お盆休みは必ず、玲子さんと海外旅行をしていた。

なのに、今回は日本にいるのね。
珍しいな。

「……彼女がお勤めを始めて、海外旅行できるほどは休めんらしいわ。……まあ、そう拗ねるな。社長はもちろん断ったけど、あおいが自分で判断して、会社に行っとーねんから。」

光くんパパはそう言って、光くんの背中をなだめるように撫でた。

……成之さんと玲子さんの関係に対して、本妻さん同様に怒ってていいはずなのに、光くんパパはむしろ寛容だと思う。

いや、本妻のおばあちゃんも、怒ってるように見えない。

「彼女……ね。」
光くんが吐き捨てるように言った。

むしろ、一番怒ってるのは、光くんに見える。
前に、山荘で遭ったときも、玲子さんに敵意むきだしだったっけ。


「なーあー!腹、減った!」
薫くんがちょっと大きな声で空腹を訴えた。

光くんパパが肩をすくめた。
「ごめんごめん。……あ、さっちゃん。パスタソースの味、みてくれる?」

「はい!?……はい!」
突然でびっくりしたけど、パタパタと光くんパパの後を追った。