小夜啼鳥が愛を詠う

「作法とか気にしなくていいから。桜子。入っといで。」

おじいさまの声と、原さんに促され、私は恐る恐る襖の前に座った。

光くんのおばあちゃんに教えてもらった通り、襖の取っ手に手をかけて少し開き、手を換えて、自分の通れるところまで襖を開けた。

……お茶室?

なんか違う?

ん?

いや、炉は切られてるし、釜もかかってる。

床の間には書の軸が掛かっていて、どう見ても茶室なんだけど……文机と座布団や書箪笥もあるのよね。

これは一体?

「失礼します。」

とりあえず手をついて頭を下げて、にじり入って顔を上げた。

床の間の前のお客様席におじいさまが座ってらして、釜の前には……うーん……穏やかそうな紳士。

「桜子。娘婿の天花寺(てんげいじ)恭匡(やすまさ)くんだ。社の役員も勤めてくれている。」

娘婿……と言うことは?

私の叔父さんってことになるのかな?

「はじめまして。小門桜子と申します。よろしくお願いします。」

「桜子ちゃん?ごきげんよう。」

声も笑顔もソフトな、いかにも!な紳士っぷり。

天花寺って、旧華族……いや、そもそもお公家さん?

「なるほど。美人ですね。お義父さんが自慢したいわけだ。」

そう言って、天花寺さんはさりげなく口元を隠して笑った。

リアル平安貴族を見てる気分かも。

「こっちおいで。恭匡くんがご飯の後でお茶をたててくれるそうや。」

おじいさまに手招きされて、私はお席に移動した。

「本当はお近づきのしるしに、本格的な茶懐石でおもてなししたいところですが……堅苦しいのはお義父さんもお嫌いなので、簡単なお弁当にいたしました。」

……本格的な茶懐石って……無理無理。

てか、これって……本当に歓迎されてるのかしら。

何だか、藤巻くんの彼女をもてなすという名目で値踏みしてプレッシャーをかける玲子さんみたい。

天花寺さんにそんなイケズな気持ちがあるとは思いたくないけど……普通に観察はされてるよね。

緊張するなあ。

おじいさまはニコニコしてても怖いし、天花寺さんは得体が知れなくて怖いし……私は借りてきた猫状態で従容と食事をした。