小夜啼鳥が愛を詠う

……いつの間に……どなたかが持って来てくれてたんだ……。

気づかなかったな。

てか、声かけてくれればいいのに。

……とりあえず……トイレ行きたいかも。


パソコンの電源を落とし、USBをポケットに入れて、席を立った。


綺麗なお手洗いを使わせてもらい、部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、目の前のドアが開いた。

さっきの……芦沢さんだ。

私は慌てて頭を下げた。

芦沢さんは、ちょっと引いて、私よりさらに深々とお辞儀してくださった。

「お部屋に、足りないものはありませんか?」

そう尋ねられ、私は首を傾げた。

「まだわかりません。パソコンしか使ってませんので。……何か必要になりましたら、よろしくお願いします。それから、あの、どなたかがいつの間にかお茶とお菓子をお持ちくださったのですが……」

「ああ。秘書課の者が。集中してらしたそうですね。根を詰められませんように、休みながらご覧になってください。」

芦沢さんはそう言って、会釈して、廊下の向こうへと行かれた。

……ランチ、外に出てもいいか聞けばよかった……。

何と言ってもマンションはすぐ隣。

慣れたらお昼を食べに帰宅できるかもしれない。

そしたら、薫くんと一緒にご飯食べられるかな。



お部屋に戻ると、ほどなく原さんがやってきた。

「お昼のご用意がととのってます。」

「え……。」

ここ、賄い付き?

そんなわけないよね。

「わざわざ準備していただいたのですか?」

「はい。これからも、社長が本社にいらっしゃる時は、桜子さんとご一緒にランチを望んでおられます。」

「……はあ。」

竹原さんも?

それとも、おじいさまだけ?



原さんの案内で向かったのは、社長室ではなかった。

エレベーターで一階まで降りて、あの箱庭になっている中庭をぐるりと廻る。

……奥は新設の茶室……かな?

白木の格子戸を開けると、土間、躙り口、そして襖に障子、水屋もある。

お茶室だ。

「失礼します。桜子さんをお連れしました。」

原さんが声をかけると、中から涼やかな声。

「どうぞ。」

……知らない声だ。

ランチじゃなくて、お抹茶とお菓子をいただくのかしら。

お作法、あんまりよく知らないんだけど……。