小夜啼鳥が愛を詠う

「少なくとも義人さんのお嬢さまのまいらさんの前では今のところタブーですね。まだ何もご存じありませんから。社長と奥さまは桜子さんのご成長を楽しみにされてますので夏子さんには感謝と謝罪の念がお強いようです。社長と義人さんの間では、社長が義人さんをイジメるネタになってます。お2人はあの通りライバル関係のようなものです。……若奥さまは複雑でしょうね。夏子さんに対しても、桜子さんに対しても。」

「……そうですよね。」

わかってたことだ。

当たり前だ。

夫の元カノが勝手に夫の子を産んで、平気でいられるわけがない。

「しかし、最優先事項は奥さまの積年の望みを叶えることです。若奥さまも、重々承知してらっしゃいます。なるべく波風を立てないように、我々もフォローいたしますが……先ほどのように、周囲にわかるほどに義人さんと情を通い合わせられますと、ちょっと……。」

原さんの言葉はけっこうツボだった。

情を通い合わせる……かぁ。

なるほど、単に「見つめ合う」よりも、近いかもしれない。

……いやいやいや。

何か、やらしい意味も含まれそうだし、あんまりよくないかな?

「……わかりました。気をつけます。あの……やはり、竹原さん……義人さんとは……あまり、関わらないほうがいいのでしょうか。」

本当は、会いたかった。

会いたくて会いたくて、ここまで来た。

でも、やっぱり……図々しいよね……。


原さんは、真顔で私を見た。

……ね、値踏みされてる……。

このヒトも怖い……。

ざわざわと心が波立つのを感じながら、私は踏ん張った。


原さんは、ひときわ声をひそめて言った。

「共鳴し合う2人を引き離したところで無駄でしょう。目立たないようにどうぞ。僭越ながら申し上げますと、芦沢は若奥さまと兄妹同然の者です。お気をつけください。」

……なんか……密会のアドバイスをもらった?

返事に困るわぁ。




午前中は、用意されたパソコンで、渡されたUSBのデータを見せてもらった。

……って……どう見ても極秘データばかりなんですけど。

てっきり、今後の業務に関する開発資料だと思っていた。

でもこれは会社の中枢をのぞかせてもってるんじゃないかな?

本社だけじゃない、系列会社の人事や経営状態が詳細過ぎる。

「あの……これ……」

話しかけようとしたけど、いつの間にか原さんの姿は消えていた。

時計を見ると、もうすぐお昼。

テーブルにはお茶とお菓子。
すっかり冷めてる。