小夜啼鳥が愛を詠う

「あの、こちらこそ、ありがとうございます。ずっと社長が、私たちを気にかけてくださっていたと、母から聞きました。」

お顔をのぞきこんでそう言ったら、社長の眉間にしわが寄った。

「……役職で呼ばれたくない。おじいちゃん。」

「僕も会社では社長とお呼びしてますけど。」
すかさず、竹原さんがそうつっこんだ。

ら、竹原社長は、ふんと鼻で笑った。

「かわいい桜子と、お前と、比較する意味があるか?」

……怖い。

やっぱり、違う……。

私に向けられる眼差しとは明らかに違う冷ややかな社長の目。

「……失礼しました。社長。」

竹原さんは慇懃無礼にそう言って、その後は貝のように押し黙った。

い……居たたまれない。

「お前が余計なことゆーから、桜子が怯えてしもたわ。……かんにんやで。おじいちゃん、桜子には何も怒ってへんしなー。」

まるで子供をあやすように社長は私に向き合った。

ふざけてるわけではなく、必死さが伝わってきた。

本当に私と打ち解けたいのだろう。

私は社長に対する畏怖を飲み込んだ。

「あの……私、祖父と呼べるかたにお会いするのは初めてで……あ!先週やっと主人の祖父が『おじいちゃん』になりました。馴れるまで時間がかかるかもしれませんが、お許しいただけるなら『おじいさま』とお呼びしてもよろしいですか?」

社長は、うーんと唸って、渋々うなずいた。

「ま、よかろう。妻のことも祖母と呼んでやってくれるとうれしい。」

「はい。……詳しいことは存じ上げてないのですが、お身体が……?」

「目安はあと4年だそうだ。」

社長……もとい、おじいさまは沈鬱な表情でそう言った。

「4年……。」

私の出向予定期間で、薫くんの在学期間で……祖母の命の保証期間……か……。

「抗癌剤治療を断念して、やっと落ち着いてね。今は、庭で鳥と戯れて、ゆっくり静養してるよ。桜子に逢えるのを楽しみにしてる。芦沢。」

「はい!……どうぞ!小門さん!……桜子さん……。」
芦沢さんは、美しい白い和紙の封筒を私に手渡してくれた。

てか、呼びかた!
矯正されちゃったよ。

……ここではおじいさまが王様ってことが、それだけでもよーくわかった。

怖い……怖いよ……。