小夜啼鳥が愛を詠う

結局、野木さんは、ちゃんと、美術部に入部した。
そして、光くんと私は美術部に在籍する幽霊部員になった。

光くんは美術準備室ではサロンのようにくつろいでいた。
普通の部員のように、放課後、絵を描いたり、彫刻したり……なんてことは、一切しない。
ただ、授業中の避難場所として、便利に居座っていた。

……当然、普通に授業を受けていた私には、関われない時間だった。

ほらね。
どんなに光くんに近い存在のように言われても、所詮私は部外者だ。
光くんが何を考えているのか、どう感じているのかすら、全然わからない。

……ううん。
まだ入学したばっかり。
中学生活が始まったばかり。
これからもっと仲良くなればいいんだ。

がんばる!




「桜子!藤やん!海、行こう!」
ゴールデンウイークは、小門家の須磨の別荘に一緒に連れて行ってもらった。
今回は、薫くんのお友達の「藤やん」こと藤巻くんも一緒だ。

藤巻くんは、涼しげな目元の端整な少年だった。
太陽のような薫くんとは対照的な、落ち着いた雰囲気。
お寺の子だからか、何となく持ち物も、衣服も、いい香りが染み付いてるような気がする。

「絵に描いたような別荘や。父の郷里の古寺(ふるでら)とは大違いや。」

藤巻くんの言葉に私は首を傾げた。
「あの山荘も素敵だと思うけど?小さなお城みたい。」

でも、藤巻くんは苦笑した。
「いや。あれはうちのモンちゃうから。本山の持ちモンを父が管理してただけ。雇われ店長みたいなもんや。」

「……雇われ社長ぐらいの権限はありそうだけどね。人事権もあるし。」

隣の部屋から光くんが突っ込んだ。

相変わらずママべったりな光くん。
まるで、一時(ひととき)もママから離れたくないみたい。

てか、今の最後の言葉って……玲子さんをかなりの好待遇で雇った藤巻くんのお父さんに対する嫌味みたい。

「そんないいもんちゃうわ。責任だけは大きいけど、しょっちゅう京都に呼び出されとーし。」
そう言って、藤巻くんはため息をついた。

「それでも京都にいた時はよかったんやけどなあ。ちゃんと休みもあったし。今の父には休みもないわ。365日四六時中、お客さんが来てくれはる。ありがたいことやけど、俺もどこにも行けん。旅行もお泊まりも、久しぶりや。」

……藤巻くんには、どうやらお母さんがいないらしく、お父さんと2人きりの暮らしのようだ。