小夜啼鳥が愛を詠う

お部屋の中には、社長以外に3人の男性がいた。

竹原社長父子と、怜悧そうな壮年の男性と……もう1人の若い男性には見覚えがあった。

野木さんの結婚式の時に、まいらちゃんに草履を届けに来たヒトだ。
確か、「ひろやくん」と呼ばれていた……。

秘書の原さんと芦沢さん、と紹介された。

芦沢さんが「ひろやくん」ね。

秘書2人の登場で、てっきり私は彼らの下について仕事をするんだと思った。

でも、風向きがちょっと違う?

「桜子さんには、業務に入る前に、研修を受けていただきます。」

さくらこ……さん?

秘書の原さんに、まず、名前で呼ばれたことに違和感を覚えた。

私の扱いって……。


「原さん。『小門さん』に、資料を。」

芦沢さんが、わざわざ名字を強調して、前に出た。

……上司にさりげなく知らせているらしい。

てっきりペーパーかファイルを渡されるのかと思ったら、USBメモリを原さんから手渡された。

「たいしたことは入ってません。が、プリントアウトやコピーはできません。……ざっと目を通されましたら消去いたします。桜子さんのお心のみにお納めください。」

原さんは、また私を名前で呼んだ。

……そこに強い意志を感じた。


芦沢さんが竹原さんを見る。

竹原さんは苦笑して、社長に言った。

「小門さん、ですよ。……うれしいお気持ちはわかりますが、少しは自重してください。小門さんが困ってます。」

でも社長はそんなつもりはさらさらないらしい。

「今さら取り繕う必要もないだろう。桜子。よく来てくれた。会いたかった。」

優しそうでも怖いヒトだという印象が霧散するほどに、竹原社長はデレデレだった。

「……ありがとうございます。」

びっくりしたけど、とりあえず歓迎されてるようだ。
ちょっとホッとした。

「夏子さんに似た美人になるとは思ってたけど、ほんまにイイお嬢さんに育って……」

竹原社長の目が潤み、言葉が止まった。

……泣いてらっしゃる?

無言で芦沢さんがハンカチを差し出し、社長は目元と鼻をおさえた。

「失礼。古城さんにはいくら感謝してもしたりひんな。ありがとう。ほんまに、ありがとう。」

社長はそう言って、私の両手をぎゅっと握った。

……なぜか、秘書の原さんも、眼鏡を取って目尻にハンカチをあてていた。

どうしよう……。