小夜啼鳥が愛を詠う

その夜は、ホテルのスイートルームに宿泊させてもらった。

豪華な調度品は素敵だったけれど、多すぎる部屋数も、広すぎる空間も、どうでもよかった。

誰に憚ることなく、抱き合い、お互いをむさぼり、声をあげて伝えた。

愛してる、気持ちいい、大好き……と。




翌日は、両家と会社に挨拶をして、新居へと向かった。

地下鉄の出口を上がると、早咲きの桜……竹原さんがママを重ねたあの桜が咲いていた。

春秋先生のリトグラフは、実家に置いてきた。

私はいつでもこうして本物を観ることができるから。

そして、竹原さんとも……もうすぐ逢えるから……。



数日間、薫くんと私は気ままに新婚生活を楽しんだ。

周辺を散歩し、食事やお茶を楽しみ、時間を気にせず抱き合った。

もういつ妊娠してもいいんだー。

まあ、出向先の業務に慣れてからのほうがいいかなあ。

なーんて、会社から一週間離れただけで、私の頭はゆるーくまるーくなっていた。



4月1日、さすがに気合いを入れて、早めに隣の社屋へと踏み込んだ。
……ら、始業時間までカフェで待たされた。

拍子抜けしてコーヒーを飲んでると、中庭の桜が目についた。

これまた……夢のように美しい可憐な紅枝垂れだ。

てか、桜だけじゃない。

お庭の苔むした感じが何とも情緒深くって素敵。

結局、警備員さんが呼びに来られるまで、お庭を眺めていた。

綺麗な受付嬢が、笑顔で応対してくれる。

既に準備されていた「小門桜子」のIDパスカードをもらって案内された先は……うん、たぶん、今日中にはお会いするんだろうな……とは、思ってたよ。

でも、いきなり初っぱなから、社長室かぁ。

緊張するなあ。



観音開きのドアが中から開かれた。

てっきり、竹原社長の秘書が開けてくれたのだと思ったら、当の本人だった。

「待たせたみたいだね……いや、長いこと待ってたのは私のほうやな。」

そう言って、竹原社長は私の両手を取り、ソファにいざない、座らせた。

びっくりした。

こ、言葉がでない……。

「社長。……困ってはりますよ。」
笑いを含んだ低い声。

この声!
竹原さんだっ!