小夜啼鳥が愛を詠う

「……迷惑ですよ。でもかまいませんよ。周囲が迷惑かけられるほうがマシですから。……あなたに合わせさせないでください。……理想を押し付けたり、型にはめようとしないでください。野木さんの個性が死ぬよ。」

光くんは硬質な声で春秋先生にそう言った。

うわぁ。
よく言うよ……と、思わずつぶやいた。

光くんの気持ちはわからなくはないけど……春秋先生にしてみれば、そんなこと、一番言われたくない相手じゃない?

でも、オトナな春秋先生は神妙にうなずいた。

「……もちろんそのつもりや。せやのに、なんでこうなったんやろ。……俺の配慮と言葉が足らんかったんやあ。かんにんやで。」

そっと野木さんの頭を撫でる春秋先生。

野木さんは、恥ずかしそうに……でもうれしそうに春秋先生を見つめていた。

……あー……この2人って……なんか……初々しいというか……。

たぶん、まだ……だったんだろうな。

そっか。

初夜までお預けだった行為を終えてから逃げ出したんじゃなくて、それ以前に機嫌を損ねたんだ。

それって、つまり……

「……マリッジブルーだったんだ。」

私がそう言ったら、野木さんはうつむき、春秋先生は苦笑していた。




「ふーん。色男もかたなしやな。」

夕方、薫くんに事の顛末を話した。

「ねえ。……でも野木さんの、そーゆー思い切ったことをしちゃうところが、春秋先生には新鮮なのかもね。」

自分で言ったことばに、何となく、思い当たった。

竹原さんも?。
新鮮……だったのかな……奥さん……。

あ……なんか、思い出した。

少女漫画、だ。

往年の名作のキャンディ・キャンディみたいな感じ?
決して性格も容姿も育ちもいいとは言えない主人公が、高スペックの男性陣にもてもて、ってやつかなぁ。

「……まあ、何でもいいけど……次はちゃんと俺を観ててな。」

薫くんはそう言って、私の耳朶を少し噛んだ。

「痛っ!……怒ってる?……ごめん。」

「いや。でも気になった。何しに来とんねん、とも思った。」

……怒ってるよ、それ。

「ごめんね。野木さんも心配だけど、薫くんの応援もしたかったから……欲張って、逆に不快にさせちゃったね。」

そう言ったら、薫くんは私を抱き寄せて、ぐりぐりと頭を胸に押し付けた。

……甘えてるのかな?