小夜啼鳥が愛を詠う

「まあ、お寺のご婦人方のおつきあいは、野木にはわかんないけど、そこはうまくいってるんじゃない?」

野木さんはそう言って、突然振り向いた。

釣られて私も視線を移した。

あ……。

春秋先生だ。

息を切らして、青い顔をしてらっしゃるのが遠目でもわかった。

「わー。昨日と別人。夕べ寝てないんじゃない?お気の毒。野木さん、逃げちゃダメだよ。」

光くんの言う通り、春秋先生は珍しく着の身着のまま?……無精ひげまで!

「野木が落ち着いたみたいだから、居場所教えた。……後悔しないように、ちゃんと話せ。短気にならんとな。」

明田先生がそう言いに来て、また少し離れたところに座った。

「さっちゃんも。こっちおいで。」
光くんが手招きした。

「うん。野木さん。素直にね。」

「……う……う……ううう……。」

野木さんは、うんともすんとも返事できず、ただ唸っていった。


わっと歓声が上がった。

観ると、薫くんのチームが得点したようだ。

よし!
何だか私にも気合いが入った。

春秋先生は、野木さんの前まで来ると、しゃがみ込んだ。

慌てて野木さんも、ベンチではなく、足元に腰を落とした。

2人は小声で話し、どちらからともなく抱き合った。

……よかった。

「……猿みたい。」

光くんのクールな揶揄を、肘でついてたしなめた。



ホイッスルが鳴り、試合が終わった。

薫くんが飛び上がって、部員たちとぶつかりあって、はしゃいだ。

ベスト4だ。
あと2つ勝ったら、インターハイだ。

「ピッチにも猿がいっぱい。みんな、元気だねえ。」
光くんが目を細めてそう言った。



結局、光くんが車で3人を送ってくれた。

明田先生は神戸のご実家へ、野木さんと春秋先生は京都のホテルへ。


「迷惑かけてごめんな、光くん。」

何だか人相が変わるほどダメージを受けてる春秋先生のことを、さすがに光くんも放り出せなかったみたい。

「迷惑なんて。ね?光くん。」

無愛想な光くんに返事をさせようとしてみた。

けど光くんは、前方を見つめたまま……。

「小門兄。ありがとう。」
野木さんが小声でお礼を言った。

光くんの表情がちょっと険しくなった。

……なんか、やばいかも。

余計なこと言わないといいけど……。