小夜啼鳥が愛を詠う

野木さんはそう言って、空いてる席に座った。

ギリギリ屋根で日差しを遮ることのできる、応援の団体から少し離れた端席。

明田先生は、少し離れた後方に座られた。

「……どうして?」

光くんも少し離れたところに座った。

そっぽ向いてるけど、しっかり聞いてるねえ……。

「だって……春秋先生……あのヒトのことばっかり気にしてて……」

あのヒトって……

「竹原希和子さん?」

そう聞いたら、既に赤かった野木さんの目がみるみる潤んだ。

「でも、既婚者よね?娘さんもいらっしゃる……まいらちゃん。」

野木さんはこっくりうなずいて、ほーっと息をついた。

「……今まで……こんなことなかった。これまでに、何度か、竹原夫人にもお会いしたことあるけど……単に、思春期に好きだった女の子にいつまでも幻想抱いてる、ぐらいの認識だった。相手はとっくに結婚して子供産んでるのに、何をいつまでも偶像崇拝してるんだろうって呆れてた。でも、急に、私をあのヒトに近づけようとし始めた気がする。比較対象……というか、基準があのヒトで……。」

そこまで言って、野木さんは鼻をすすった。

野木さんの背中をさすりながら相づちを打っていた私も、何だか複雑な気分になってきた。

「どんなヒトなの?竹原希和子さん。」

そう尋ねると、野木さんは苦笑いした。

「女友達がいないタイプ。」

「……なるほど。」

それだけで、何となくわかる気がした。

確かに、年齢の割に妙に落ち着いてるというか……まあ、女友達とキャッキャとはしゃぐタイプには見えないかな。

それに、春秋先生や坂巻さんと仲良しでしょ?
妬まれそう。

しかも、あの竹原さんと結婚て……。

でも……。

「たまたま仲良くなれたけどさ、基本的に、私も、野木さんも、椿さんも……女友達できにくいタイプじゃない?」
自虐のつもりはないけど、そう聞いてみた。

光くんがこっそり笑ってた。

「全然違う。野木はオタク、椿氏は歌劇に心血注いでるだけ、さくら女は……そうかも。さくら女は、女子受け悪いほうかも。美人で成績良くて真面目過ぎるぐらい真面目で、しかも小門兄がぴったりくっついてガードしてて。普通の女子は反感抱くかも。」