小夜啼鳥が愛を詠う

「さすがにそこまでは……。」

私はもう一度名刺に目を落として、それからバッグにしまった。

「御社とのお仕事って……電子製品?……もしかしてセンサー?……下請けですよね?……まさか共同開発とか……そんな話あるんですか?」

昨日見た資料から類推して、ちょっと図々しくそう尋ねてみた。

竹原さんの目が少し細くなった。

「さあ。どうかな。……俺がなんぼ暗躍したところで、あのヒトの胸三寸やからなあ。」

……暗躍?

あ。

じゃあ、あの、いかにも内部資料は、竹原さんが寄越したの?

どういう意図で?

竹原さんをじっと見た。

さっきまでとは違う、不思議な感覚。

このヒト、いったい……?



それ以上、たいしたことを聞けないまま、私たちはテーブルに戻った。

「よぉ。」
遅れて到着していた坂巻さんが、手を軽く挙げた。

「こんにちは。ご無沙汰してます。」
私はそうご挨拶して、席についた。

……あ。

坂巻さんだけじゃなく、もう1つの空席だったところにも女性が座ってた。

竹原さんの奥さま?

なんか、イメージと違うな。

意外とこう……地味というか……

山吹色の色留袖に柔らかい若草色の帯。

お着物はむしろ華やかな色合いなんだけど、お顔が知的なお上品系?

「さっちゃん。営業ごくろうさま。鯛のポワレ、冷めちゃったよ。」
光くんがそう言って私に食べるよう促した。

「うん。でも緊張しすぎて、食欲なくなったかも。」

「じゃあ、飲み物もらう?シャンパン?ウーロン茶?水がいい?」

いつも以上にかいがいしく世話を焼いてくれる光くんにお礼を言って、氷なしのウーロン茶をもらった。

「じゃあ、私、もーらいっと。」

椿さんが横から手を伸ばして、私の食べなかったお料理を平らげてくれた。


続いて運ばれてきたのは、お口直しのグラニテ。

「椿さん、これも食べる?」

そう尋ねると
「パス!私、今、ダイエット中。」
と、意味のわからないことを言われた。

……鯛のポワレを2人分食べたのに?

首を傾げながら、グラニテを引っ込めた。

「光くんもいらないよね?」

小声でそう聞いてると、坂巻さんがひょいと私のグラニテのお皿を取った。

食べてくれるのかな?

お礼を言おうとしたら、坂巻さんはまいらちゃんに差し出した!