小夜啼鳥が愛を詠う

私は、名刺を差し出した。

「はじめましてお目にかかります。私、神戸の、」

「はじめてじゃありません。」

紋切り型のご挨拶を思いがけない言葉で遮られて、私は硬直してしまった。

え?

ええっ?

えっ!?

「覚えてはりませんか?」

笑顔でそう聞かれて、私は脂汗がにじんでくるような気がした。

「漠然とは覚えてはるみたいです。……初対面の俺にお父さんを重ねてはりましたわ。」
背後から、竹原さんがそう言った。

て!

お父さん!?

え!?

……えええっ!?

思わず、振り返って私は竹原さんの顔を見上げた。

端正なお顔がすぐそばにあって、びっくりした。

……。

やだ、ほんとに似てる……。

そっくり!ではないものの、絶対他人じゃないって感じ。

親子?

え?

じゃあ、竹原さんって……御曹司……?

あ……それで、「成金」なんて言い方したんだ。

身内じゃなきゃ、とてもそんな失礼やこと言えないよね。

そっかぁ。

竹原さんに感じた懐かしさは、こちらの社長に対するものだったんだ……。

言葉を失ったままの私に、社長さんが話してくれた。

「昔、娘が体育祭で骨折したのですが、その時にあなたのお母さまが居合わせて、すぐに病院に連れて行ってくれたんですよ。それで、私があなたを病院にお連れして。……記憶にありませんか?」

体育祭……。

お祭りのような賑やかだった記憶は、体育祭だったのか。

……あ!

思い出した!

「聞いたことがあります。母がかつて勤めていた学園の体育祭にお邪魔した、という話を。たぶん、その時のことですね?」

実際に思い出したのは、体育祭の記憶ではなく、母から聞いたことがあるという記憶。

竹原さんのお父さんのことは……。

「あの……先ほど、竹原さまのご自宅にも私はお邪魔したことがあると聞いたのですが……それはまた別の機会でしょうか?桜の時期のようですが。」

体育祭と桜じゃ、季節が違うよね?

もしかして、2度もお目にかかってるのだろうか。

さすがにまったく覚えてないというのは、失礼かもしれない……。