小夜啼鳥が愛を詠う

「進之候……これをまいらせそうろう……って、中世の書簡の末尾によく使った慣用表現なんだよ。ちょっとマニアックで、お兄さんの感性でもないのに……。そういえば、奥さんって、前に連れて来た女の子でしょ?」

光くんは、そう言ってからもう一度座席表に目を落とし、くすくす笑った。

ヒトの奥さまを思い出して笑うなんて……失礼だよ、光くん。

竹原さんは苦笑いした。

「ああ。俺は若い奥さんに頭の上がらへん常識人やからな。光くん、逃げ回って関わろうとせんかったけど、覚えてるんや?」

うーん。

自虐的なのにかっこよく聞こえるのは何故なんだろう。




会場のライトが落とされた。

音楽が流れ、スモークがたかれ、司会者が新郎新婦の入場を告げる。

スポットライトが照らすドアが開き、幸せそうな本日の主役2人が姿を現した。

野木さんは朱色地の豪華な打ち掛けと角隠しだった。

綺麗~。

和やかに披露宴が始まった。

野木さんは宣言通り、何度もお色直しで席を立った。

春秋先生は、紋付き袴と黒い燕尾服だけだったので、高砂席に独りで座り、祝辞と祝杯を受け続けた。

「春秋くん、飲みすぎじゃないかな。」
途中で竹原さんがそう心配していた。

……優しい……と、どうしても好意的に見てしまう。

食事しながら、ヒトさまのスピーチを聞きながら、私は竹原さんに見とれた。

気のせいではなく、竹原さんもまた、私を盗み見ていた。

何度も目が合い、視線が絡み合い……周囲の音も、他の誰のことも気にならなくなった。

隣の椿さんや光くんは、そんな私に気づいていたと思う。

2人とも非難めいた目で見ることはなかったけれど、何かと話しかけられた。



お腹が膨れてくると、光くんは座席表を私に見せて言った。

「すごいねえ。お父さんの言ってた通りだ。政、官、財、芸術家、宗教家、伝統芸能、教育者……各界から有名人が列席してるよ。」

「あ!そうだった!忘れてた!えーと、財……経済……企業の代表は……このへんかな……。」

私たち友人席と両家の親類席以外のほとんどの出席者は、名前だけでなく立派な肩書きを有していた。

名前よりも、やや小さな文字で記された肩書きを目で追う……。

うん。

いくつか、取引のある会社名があった。