小夜啼鳥が愛を詠う

「けっこう前やな。ほながんばって、行こうか。」

竹原さんがそう言って、先陣を切ってくれた。

まだ披露宴が始まったわけではないけれど、私たちは会場中から凝視されていた……。


「もう!遅いわ!……このテーブルだけ誰も来ぉへんから恥ずかしかったわ!」

椿さんが1人でぽつんと座ってた。

「……ごめん。お待たせ。明田先生は?」

「あっち!恩師テーブル。……それもかなり苦痛みたいで、こっち来たがってらっしゃる。」

高砂席の真ん前のテーブル席から、明田先生は赤い顔して手を振ってくれた。

「ほんとだ。淋しがってる。あとで遊びに行ってあげよう。」

光くんがそう言って、私の椅子を引いてくれた。

ホテルのヒトがやってくれるのに……。

「ありがと。……光くんの隣も、まだ?空席?」

私たちより遅いヒトもいるのかな。

「うん。坂巻さん。……と……?」

「うちのママ。」
身を乗り出すようにして、竹原さんの娘さんが教えてくれた。

なるほど。

改めて座席表を見る。

……さっきから、彼女の名前がよく聞き取れなくて……「まいら」って聞こえるんだけど……いわゆるキラキラネームってやつ?

確認すると、このテーブルに竹原姓は3人。

竹原義人、竹原進、竹原希和子。

……進?

「すすむ」じゃなくて……これで「まいら」なの?

思わず、隣の光くんに座席表を見せて「進」の文字を指さした。

光くんは、納得したように何度か軽くうなずいて、おもむろに口を開いた。

「お兄さんの奥さんって、日本史専攻だったの?もしくは、経済史か……国文か……とりあえず、古文書読めるヒト?」

「え?知り合い?」
と、椿さんが小声で尋ねた。

「うん。光くんのお父さんのお友達。」

そう答えたら、椿さんは笑顔で竹原さんに会釈した。

竹原さんもニッコリ……罪な笑顔だぁ……。

「古文書は趣味?専門は仏教。……孝義くんと一緒。……なに?娘の名前のこと?」

「うん。普通は読めないでしょ?これ。まいらちゃん、とは。」

「はい!まいら、です!」
まいらちゃんがそう言って、手を挙げた。

「しーっ。」
と、竹原さんがまいらちゃんを窘めた。