小夜啼鳥が愛を詠う

昔の人見知りモードでもない、今のお店での営業スマイルもない……よくわからないけれど、心の壁を感じた。

彼女が傷つかないように、慌てて会話に加わった。

「前に私のママ……母が関東にいた頃ね、おじさんやおばさんの年齢に達しても『お姉さん』『お兄さん』って、初めてのヒトに呼びかけてたんだって。」

私の言葉には、光くんは普通に乗っかってきた。

「うん。そうだね。お店にもそういうお客さん、たまに来るよ。」

……機嫌を損ねたわけではないらしい。

「お兄さん、お店の店員さん?何屋さん?お姉さんと夫婦?」

彼女は、私たちに興味津々みたい。

「純喫茶。2人とも未婚。」
光くんが、素っ気なく答える。

彼女にとっては聞き慣れない言葉だったらしく、首を傾げていた。

「……喫茶店のことよ。お酒を出さない喫茶店。」

そう補足説明すると、彼女は顔を輝かせてうなずいた。

「じゃあ、今度パパに連れてってもらおうっと。お店、どこ?」

光くんは答えなかった。

私が代わりに答えようかと思った時に、竹原さんが両手にシャンパングラスを持って戻ってきた。

後ろに、有名な草履屋さんの紙袋を持った男性を従えて。

「はい、どうぞ。……まいら、草履に履き替えなさい。」

竹原さんは私に、それから光くんにグラスをくれた。

そして、一緒に来た男性が紙袋から出した新しい草履……あれ?

「草履、さっちゃんのと似てない?……ご縁だねえ。」

光くんの言った通り、たぶんエナメル地の色が私のは濃い赤で、彼女のは桜色。

「色違いみたい。」

そう言ったら、彼女はうれしそうなお顔になった。

「またおソロ!すご~い!一緒に写真撮ろ!」

新しい草履に履き替えて、ご機嫌の彼女。

「……とりあえず、会場入ろうか。もうテーブル埋まってる。遅れて入るの、恥ずかしいで。……啓也くん、ありがとう。」
「ありがとう!」

竹原さんに促され、慌ててシャンパンを飲み干した。

光くんが、グラスをホテルのヒトに返す。

「えーと、お席は……」

披露宴用の座席表を開く……すごい人数。

ざっと見て、1000人超えてる。

てか、他のテーブルは10人とか12人配置なんだけど、私たちのテーブルは8人だ。