小夜啼鳥が愛を詠う

「うん。会社は薫とさっちゃん。僕はあの喫茶店。」

光くんはいつもよりキッパリとそう言い切った。

あの、って言った?

竹原さんも、パパのお店をご存じなんだ……。

「そうか……。」

ちょっとほほ笑んで、竹原さんは私に言った。

「嫁ぐ前から、大きなものを背負わされてはるわ。……まあ、小門はできるヤツやし、あおいちゃんもついてるし大丈夫やろけど……気負い過ぎんときや。」

優しい言葉だった。

いつも、がんばらなきゃって……自分にはっぱをかけてる私の心に、すーっと沁み入った。

涙が……。

やだ。

泣くところじゃないのに。

私は慌てて頭を下げて、こっそり涙を指ではらった。

光くんが少しだけ歩みを速めたのは気のせいじゃないと思う。
いつも、ちゃんと私の気持ちを汲んでくれるから。




ウェイティングルームに入ると、竹原さんの娘さんが笑顔で待ち受けていた。

「パパ~!遅い!ほら、見て。啓也くんが!」

そう言ってぎこちなくこちらに向かってくるその足には、舞妓さんのぽっくり!

黒い塗りに赤い鼻緒の、かわいいけど歩きにくそうな丸っこい下駄だ。

危ないなあ、と思ったら、案の定、彼女は前のめりにつまづきそうになった。

「おっと!……危ないよ。」

素早く、光くんが駆け寄り、彼女が倒れないように支えた。

「……あ、りがとうございます……。あ……さっきも……。」

「うーん。かわいいけど、それはちょっと実用的じゃないな。……光くん、ありがとう。」

竹原さんはそう言って、すぐに携帯で電話をかけた。

「啓也くん?……うん。そう。よろしく。」

「やだー!これがいい!」

彼女はそう主張したけれど、竹原さんは首を横に振った。

「今日は普通のにしとき。危ないわ。家で練習して慣れたら、それで出かけてもいいから。」

「……わかった。」

渋々彼女はそう言うと、すぐそばの椅子に座って、足をぶらぶらさせた。

……聞き分けのいい子……というわけではないらしい。

「まいら。お行儀悪い。」

竹原さんがそう窘めると、彼女はぴたりと足を止めたけれど、むくれていた。

……かわいいな。

ストレートな感情表現がとても魅力的に見えて、私は彼女の前にしゃがんで話し掛けた。