小夜啼鳥が愛を詠う

「……とりあえず、再会を祝してシャンパンでも飲もう。」

光くんはそう言って、私の手を取った。

……久しぶりかも。

最近は、私の荷物は持ってくれても、手をつなぐことはなくなった。

薫くんに義理立てしてのことなんだけど、やっぱりこうしてエスコートしてもらうの……好き。

だって、物心つく前から、こうしてもらってきたもん。

ずっと、これが当たり前だったから。

……うれしい。



「そう言えば、お兄さん、歌劇団の子たちとつきあってたことあったよね?今も観劇してるの?」

廊下を歩きながら、光くんが竹原さんにそう尋ねた。

……複数形だ。

竹原さんはばつの悪そうな顔になった。

「光くん……余計なことは、思い出さなくていいから。……ここ何年かは観てないな。何で?……あの子……椿ちゃんだっけ?光くんのお友達?」

「さっちゃんのお友達。さっちゃんのママが椿さんのファンクラブの代表なんだ。応援してあげてよ。」

竹原さんは、へぇ……と、低い声で相づちを打った。

あまり興味ないのかな?

「光くん。さっきから……竹原さんにけっこうぞんざいな物言いしてるよ?」
小声でそうたしなめた。

でも、自覚してなかったのか、光くんはキョトンとしていた。

竹原さんが、苦笑してとりなした。

「かまわんよ。光くんは、俺の師匠やから。な?」

「うん。けっこう優秀な弟子だったよ。……お兄さん、さっちゃんと同じぐらい頭いいよ。あまり勝敗に執着しないのも、一緒。……薫みたいに闘争心ギラギラなのもめんどくさいけどね。」

……一緒……か。

それだけで、なんとなくうれしくなってるよ、私。

ほんとに、恋じゃないよね?

「20年越しで、師匠に誉めてもらったと思っておくわ。……さっちゃんも?囲碁するん?」

「最近はあまり。以前は、よくやってました。光くん、通学の電車のなかで碁盤なしでゲームを始めるから。」

竹原さんは、驚いたようだ。

「え……それって……すごいやん。……へえ……。」

「うん。すごい。さっちゃん、優秀。あーちゃんも褒めてたよ。記憶力も洞察力も。」
光くんが妙に誇らしげにそう言った。

「ふーん?光くんは?小門の会社、継がへんねんて?」

竹原さんの声質が少し変わった。