小夜啼鳥が愛を詠う

「桜が好きなんや……名前が、桜子ちゃんだから?」
竹原さんが遠慮がちにそう尋ねて、名刺に目を落とした。

今度は、桜子ちゃん、だって。

女慣れしてらっしゃるなあ……まあ……間違いなくもてるよね……このヒトは。

「はい。好きです。……単純ですけど、やはり、自分の名前だと思うと、親しみを覚えます。」
「……そうかぁ……。」
「お兄さんも、めっちゃ好きだよね。うちの桜が散るのを惜しんでたの、覚えてる。」

光くんにそう言われて、竹原さんは苦笑した。

「あおいちゃんに女々しいって笑われたけどな。……好きや。好き過ぎて、いっときは苦手になったけど、やっぱり好きや。……意地張っても、綺麗なもんは綺麗やわ。惹かれるのも、懐かしむのも、しょうがないことやろ。」

含蓄のある言い回しだった。

意味がわかるようなわからないような……

「失恋の想い出でもあるの?複雑そう。……そういや、マスターも、さっちゃんのママも、名付けた割には、特に桜に執着してないよね。絶えて桜のなかりせば、の心境なのかな?」

「そうかも。パパはホントに興味ないよね。私の名前を決めたの、パパなのに。ママは京都の桜が好きみたい。」

光くんにそう返事してから、竹原さんに言った。

「春秋先生とのご縁も桜なんですよ。チャリティーの美術展に春秋先生が出品してらした桜の銅版画に一目惚れして立ち尽くしていたら、声をかけてくださったんです。」

「……そうなんや。じゃ、お揃い、やわ。俺も春秋くんの桜、仕事場に飾ってるから。」

「お揃い……」

竹原さんは黙ってうなずいた。

視線が絡み合う……。

どちらからともなく、ほほ笑みあった。

また……だ。

喩えようのないこの感覚をどう説明すればいいのだろうか。

シンパシー……親近感……

同じ……魂……




チリンチリン、と小さな鐘を鳴らしながらホテルの人が遠慮がちに移動を促した。

よく見ると、いつの間にか広いスペースには私たち3人だけ……。

「急かされてるわ。……行こうか。」

我に返った竹原さんが、光くんに視線を移してそう言った。

金縛りが解けたように、私も光くんを見た。