小夜啼鳥が愛を詠う

竹原さんは、綺麗な手で名刺を受け取った。

「……ご丁寧にありがとうございます。でも、ごめんな。今日は名刺持って来てなくって。」

少し言葉がくだけた……。

それだけで、私はうれしくなった。

「いえ。ご挨拶させていただけただけでも……」

……また、だ。

目を離せない。

ずっと見つめていたくなる……。

たぶん、私だけじゃなくて、竹原さんも、そう。

お互いに、瞳が……意志を無視して……捉えられる……

「どこかで……お会いしたこと……」

無意識に私は、聞こうとしていた。

どこかで会ったことないか?と。

「いや。お目にかかるのは、初めて。……さっちゃんのちっちゃい頃の写真は、光くんや薫くんから、よく見せてもろたけど。な。」

……さっちゃんって呼ばれた……。

てか!

さりげなく言ってみせたけど、竹原さん、今、めっちゃ緊張してましたよね?

ちゃんと伝わってきましたよ?

「じゃあ、私も?小門家のアルバムででも拝見したのかしら。……でも、声にも聞き覚えある気がして……。」

首を傾げて思い出そうとした。

……あれは……どこ?

廊下……お祭り騒ぎ……桜?

違う……

「桜の……庭園?」

竹原さんの瞳に変化が生じた。

違う……。

あれは、また違う。

季節が違った気がする……。

あれは……。

記憶の混乱に戸惑っていると、光くんが教えてくれた。

「そうそう。お兄さんのお家に遊びに行ったことあるよ。桜の綺麗なお庭のお家。覚えてない?」

桜……。

あ、じゃあ、あの……

「個人の家の庭ってレベルじゃない記憶なんだけど。桜いっぱいの山の真ん中に枝垂れ桜が植わってるような……?」

覚えてるのはそれだけ……。

竹原さんがうなずいた。

「たぶん、それ、うちやと思うわ。」

思わず私は口を開いてしまい、後から手で隠した。

光くんが、声を出さずに笑った。

「……竹原さんの?お庭だったんですか……。……て!光くんにもっと早く聞けばよかった。とても綺麗で印象的な桜園だったから、夢にまで見てたのに。」

「そうなの?でも、確かに……綺麗だったかも。……あ!今から思えば、さっちゃんの桜のイメージは、アレだな。」

「う……そこまで覚えてないけど……そうなの?」