小夜啼鳥が愛を詠う

「なんや。光くんやったんか。娘が、しゅっとしたヒトやったて誉めてたわ。ありがとう。」

光くんにお兄さんと呼ばれたそのヒトは、光くんにはフランクにそう話し、私には遠慮がちに答えた。

「娘は、今、家の者が到着したので、新しい草履に履き替えに行ってます。」

表情も言葉もよそ行きの礼儀正しいモノ。

でも、その瞳だけはやっぱり、他のヒトとは違う……深い情を感じる……気がする……。

「さっちゃん。こちら、竹原さん。お父さんのゼミ友。あーちゃんとも仲よかったよね?」

たけはら……さん?

「いや。そこはちょっと語弊が。俺がやっとあおいちゃんと打ち解けられたんは、光くんのおかげやで?覚えてへん?……学生の頃、光くんは私の囲碁の先生になってくれたんですよ。」

竹原さんは、明確に態度と言葉を変えて、私たちに話しかけていた。

「うん。覚えてる。あーちゃん、好き嫌いハッキリしてるから。社会人になって、だいぶマシになったけど。ね?さっちゃん?」

光くんにバトンを渡され、私はやっと自分の立場を思い出した。

挨拶しなきゃ!

「おいおい。光くんが、それ、言うんや?ちっちゃい頃めっちゃ人見知りやったやん。……妹も……妻も、光くんに避けられてたんですよ。」

苦笑まじりでそう言う竹原さんに、光くんは気恥ずかしそうにうなずいた。

「うん。そうだね。僕の世界、家族とさっちゃんだけだったから。……お兄さん、彼女がさっちゃん。もうすぐうちのお嫁さん。綺麗でしょ?」

「光くん!」

びっくりした。

光くんにそんな風に紹介されるなんて……。

竹原さんは、眩しそうに目を細め、一旦、目を伏せて、それからふっとほほ笑んだ。

「綺麗やな……。」

そんな……心からの賛美……やめて……

どんな顔をすればいいのかわからず、私は両頬に手を当てて、思わずうつむいた。

「ほら、さっちゃん。照れてないで。挨拶挨拶。」

うう……光くん……何か、楽しんでない?

私は、胸元に手を当てて、そっと息をついて、それからバッグを開けた。

「はじめまして。古城と申します。社長からよろしくとことづかって参りました。」

そう言ってから、会社で作ってもらった名刺を差し出した。