小夜啼鳥が愛を詠う

「本当は、今日は義父(ちち)の喜寿を祝うために、去年からこのホテルをおさえていたんですよ。まさかこんなに早く野木ちゃんが春秋ちゃんのお嫁さんになってくれるなんて。うれしい誤算でした。」

冬夏先生の長男さんのお嫁さん……つまり、春秋先生のお兄さんの奥さんは、本当にうれしそうだった。

……野木さん、愛されてるなあ。

「喜寿……そうでしたか。それは、おめでとうございます。」

「なんもなんも。こんな老いぼれより、若い2人を祝ってもろたほうがうれしいわ。……ただ、そういう訳でわしの客が多いんや。かんにんやで。明田先生。いらん気遣いさせて。許してな。」

……なるほど。
それで、やたら見覚えのありげな文化人がウロウロしてるのか。

明田先生はひたすら恐縮して汗を拭いていた。



ホテルのヒトが会場への誘導を始めた。

「え?……チャペルじゃないの?」
思わずそうつぶやいた。

「……ねえ。違うっぽいねえ。」

光くんの視線がさまよう……社長のお友達を探してるのかな。

「仏式らしいわ。」

「ぶっしき??」

まるで外国語を聞いたかのように、椿さんは不思議そうに明田先生の言葉を繰り返した。

「ホテルで仏式?……坂巻さんのお寺で挙げてもらえばいいのに。」

光くんの言う通りだ。

……急に決まったから、ダメだったのかな。



案内された会場は、名勝登録されている日本庭園のそばの大きな和風のパーティー会場。
高い格天井も立派なお部屋に、朱塗りの杯の置かれたテーブル席が配置されていた。
正面には法輪の掛け軸。

……やっぱりココで仏式の挙式なんだ。

「ここにはチャペルも、神式挙式のお部屋も、人前挙式の部屋もあるのに、敢えての仏式って。そこまでこだわらんでええのに……。」
「ママも孝義くんもお寺やったし、春秋くんもお寺がよかってんて。」
さっきの男のヒトと娘さんの声が耳に飛び込んできた。

数え切れないほどたくさんのヒトがいる会場で、わいわいがやがやしてる中で……姿もまだ見えない2人の声をキャッチした自分の耳に驚いた。

「さっちゃん?どうしたの?……僕らの席はあっちみたい。挙式は、新郎側と新婦側と分けてるんだね。」

光くんが受付でもらった案内を見て、そう言った。