小夜啼鳥が愛を詠う

「パパ!もう!お姉さんが美人やからって!見過ぎ!やらしいっ!……ママに告げ口するでぇ?」

彼女にそう言われて、やっと我に返った。

やだ……恥ずかしい。

こんな、初対面のヒトに……。

こんなの、まるで……一目惚れだ……。

え?
一目惚れ?

いやいやいや。

私には薫くんがいる。

薫くん、ごめん!

心の中で薫くんに謝り、私は目を伏せた。

「帯が……。すみません。お嬢さん。……どうぞ。」

綺麗な低い声でそう言われて、もう一度顔を上げた。

手を差し出されてる……。

知らないヒトなのに、私はその声と、瞳に導かれるままに、手を伸ばした。

そっと優しく手を引いて立たせてもらった。

何だかドキドキしてきた。

「わ!おソロ!ほら!」
女の子がうれしそうにそう言った。

え?
何が?

あ、着物?

彼女はクルッと軽やかに半回転した。
長いさくら色の帯が、甲虫の外羽のようにまっすぐと広がった。

「あ……帯。ほんと。お揃いね。」

まさか、振袖に丸帯のヒトが他にもいるなんて思わなかったわ。
さすが京都……?

「草履の鼻緒がちぎれたんか?」
「うん。急に切れるしお姉さんにぶつかってしもた。……ママは?いつ来るん?直してもらう。」
「道具もないし無理やろ。啓也くんに新しいの持って来てもらうわ。……ああ。啓也くん?まいらの草履がダメになってんわ。悪いけど、新しいの買って来てくれる?」
「パパ!もったいない!家にあるから!」

電話を切ってから、そのヒトは娘さんに言った。

「うちまで往復する時間のほうがもったいないわ。祇園でも四条でも買えるやろ。とりあえずスリッパでも借りるか?」

そして、再びその瞳が私を捉えた。

「娘が失礼いたしました。お怪我はありませんでしたか?」

優しい瞳……。

また既視感が蘇った。

あれは……誰?

あなたじゃないの?

「私は、大丈夫です。……あの、今、友人がお嬢さまのスリッパを借りに行きましたので。」

そう言ってると、おばさまから解放されたらしく椿さんがやって来た。

「さっちゃーん。明田先生が淋しそう。しゃべりに行こ。……どうしたの?知り合い?……イケメン!」

椿さんも充分かっこいいよ、とツッコみたくなった。