小夜啼鳥が愛を詠う

東山の麓のホテルに向かって走っていると、光くんが思い出したように言った。

「そういや、菊地さんも今日は京都で法要だって。椿さんを送迎するだけじゃなかったんだね。」

「へえ?京都にご親戚がいらっしゃるの?」

江戸時代から続く造り酒屋さんなだけに、姻戚関係も大変そう。

「親戚ではないみたい。ほら、夕べ僕が飲んでた……さっちゃんのママも好きなあのお酒。あれの関係者?あんまりちゃんと聞いてないんだけど、毎年この時期に社長か菊地さんが酒樽を奉納して参列するんだって。今年は、菊地さんが来るみたい。」

「……イロイロあるのねえ。」
何となく山を見上げて合掌した。


10時過ぎにホテルに到着した。

花嫁さんの控え室に行くと、椿さんも到着していた。

野木さんは、白い打掛に、綿帽子……え?

ホテルのチャペルで、白無垢?

ウェディングドレスじゃないの?

「野木さん、おめでとう!すっごく綺麗!」

そう言ったら、野木さんは頬を染めた。

「ありがとう。さくら女も、綺麗。……小門兄も、遠いのに、ありがとう。」

光くんは笑顔を貼り付けて祝福した。
「おめでとう。野木さん、幸せそうだね。よかった。」

野木さんの目が潤んだ。

「もう、さっき、婚姻届出してきたんだって。野木って呼びやすかったのになあ。これから何て呼ぼう。」

声変わりもすっかり落ち着いた椿さんがハスキーヴォイスでそうぼやくと、野木さんは言った。

「確かに苗字は朝秀になった。が、野木を陶号にすることにした。だから、今まで通りでいい。……野木も、一人称を変えるつもりない。」

「朝秀野木……っていう、陶芸家になる……ってこと?」

びっくりしたけど、何となく野木さんらしくていいな。

「うん。椿氏の真似した。」

なるほど。
椿さんも、遠江(とおみ)椿、って、苗字を芸名にしたもんね。

「さっちゃんは真似しちゃダメだよ。」
なせか光くんがそんなことを言った。

「……真似しようがないわ。私、無芸だもん。あ。これ、会社の名刺。記念にどうぞ。」

何となく、親友の2人に差し出した。

「へえー。秘書室、古城桜子、だって。」
「名刺の字面だけ見ても、優秀な美人秘書!って匂いがぷんぷんする。」

2人にそんな風に言われて、私は照れくさかった。