小夜啼鳥が愛を詠う

「なるほど。……それでも帯芯、だいぶ柔らかいのに替えてもらったんだって。さっちゃんがしんどくないようにって。薫の指示。」

「薫くんが……。」
優しさがうれしくて、私はそっと帯に触れた。

綺麗な濃い赤の地に豪奢な金銀糸の織模様。

貸して下さったおばあちゃんだけじゃない……この帯を作ってくださった今は亡きおばあちゃんのご両親の想いと、薫くんの心のこもった大切な帯……。

「日頃から、家でも会社でも、周囲に優しくしてもらってるけど、こうして特別な装いをすると、みんなの愛情をダイレクトに感じて……ものすごく幸せに包まれてる気がする。」

ちょっと変な日本語になっちゃったけど、言わんとすることは伝わったようだ。

「わかるよ。僕も。……当たり前じゃない、過分な幸せに、いつも感謝してるから。……こーゆーのって、大病するとか、複雑な家庭環境とか、人生が狂うほどの大失恋とか……不幸要素があってはじめて気づく幸せなんだろうね。」

光くんはそうつぶやいて、それからクスッと笑った。

「薫には一生わからないだろうね。……うちの人間は、みんな傷を抱えてるからさ……薫が何一つ不自由ない今の幸せな状況を、贅沢に享受してることがうれしいんだよ。」

……ドキッとした。

中学から大学までの10年間、ずっと光くんと一緒にいたけど、こんな話はしたことなかった気がする。

でも、光くんと私には実の父親じゃないヒトに父親としての愛情を注いでもらって生きてきた共通点がある。

幸せという概念は育ての父への感謝と切っても切れない。

好き合ってるのにずっと離れ離れだった会長とおばあちゃんも、父親の会長と暮らしたことがないまま成人した社長も、兄妹として育った男性の子を彼の死後に産んだあおいさんも……今のこの穏やかな生活がまるで奇跡のように尊いことを痛感してるのだろう。

「……うん。薫くんも、これから増えるはずの新しい家族も、ワガママなほど幸せでいてほしい。……光くんが、これから好きになるヒトも、ね。」

そう言ったら、光くんはちょっと嫌そうな顔をした。

……デリカシーなかったかしら。

私は慌てて口を閉じて、前を見つめた。


5月下旬の京都は、新緑でキラキラしていた。