小夜啼鳥が愛を詠う

口に含むと、バランスの良さに驚いた。

美味しい。

「これ、好き。」
思わずそう言った。

パパは満足そうにうなずいた。

たぶん高いワインなんだろうな。

「3万円ぐらいするの?」
鷹揚に、おばあちゃんが会長に尋ねた。

……値段を聞いても下品にならないあたり、さすがだわ……。

「今コレを買うと、その5倍ぐらい?……いや、もっとするかも。」
社長がさらりとそう答えた。

15万円以上!?
さすがに高すぎ!

びっくりしてると、パパは得意げに言った。
「でも、それ、ワインが今ほど高騰してなかった頃に、プリムールで箱買いしたから。一本一万円もしなかったよ。」

プリムールとは、まだ樽熟成中に予約購入する制度だ。

「それでも充分高いって。」

薫くんがそうつぶやくと、光くんもうなずいた。

「ロマネ・コンティ社の取引価格は異常だね。オーパス・ワンぐらいが適正価格だろうに。」

……オーパス・ワンも充分高級品よ……普通は。



神戸牛とワインを堪能したあと、成之さんとパパとあおいさんは、そのままブランデーを抜栓して飲み始めた。

社長と光くんは、菊地さんの「水戸菱菊」を酌み交わした。

おばあちゃんと2人で食事の後片付けをし終えてお茶を飲んでると、薫くんがお風呂から上がって来たようだ。

「ほな、俺、明日も試合やから。おやすみ。……桜子。早く!」

薫くんは恥ずかしげもなくおばあちゃんの前で、私を寝室に呼びつけた。

「さっちゃんのほうが、朝、早いんだから、ちゃんとすぐに寝かせてあげなさいよ。」

おばあちゃんに送り出され、私は薫くんの部屋へと連行された。


昨秋、薫くんのベッドが壊れたそうだ。

買い替えにあたり、薫くんはダブルベッドを主張して、まんまと入手した。

以来、週末、小門家にお泊まりすることが増えた。

着々と小門家に取り込まれていく……。

いや、もちろん幸せだけど……恥ずかしいのよ。

いっそ、早く結婚したい、と本気で思うぐらい。

……なるべく、音を立てないように、声を漏らさないように……薫くんにぎゅっとしがみついた。


その夜は珍しく、一度だけで眠らせてもらえた。

たぶん薫くんなりに気遣ってくれたのだろう。