「うーん。私、あまり得意じゃないというか……。」
「わかった。小門兄を誘ってみる。」

野木さんは、私の言い訳めいた断りの言葉を遮ってそう言った。

椿さんが肩をすくめた。
「まあ確かにさっちゃんを引っ張り出すのに、これ以上の餌はないけどさ、彼のほうが籠絡するの難しいんじゃない?」

うん。
私もそう思う。

黙ってうなずいたけど、そんな私たちに野木さんはニンマリと笑ってみせた。

野木さん、黙ってればすごくかわいい眼鏡女子なのに……言葉遣いも、今みたいな表情も、何だか独特だわ。

「小門兄は、悪意とかマイナス感情のない人間は怖くないんでしょ?……明田さんは、ほんっとに純真無垢な天使だから、たぶん仲良くなれると思う!」

天使?
天使って、言った?
天使ってのは、光くんのように美しい人を形容する言葉だと思うんだけど……。

「明田が、天使って顔(つら)かよ。」
半笑いで椿さんが突っ込んだ。

私も、うんうんと大きくうなずいて同意した。

野木さんは、肩をすくめた。
「わかってないな~。まあ、凡人は外見でヒトを判断するからね。小門兄は、大丈夫!嫌がっても、騙くらかして、美術部に連れてきて。明田さんの美しい心映え、小門兄ならわかるはず。」

……凡人……まあ、光くんに比較したら凡人だけどさ……。

そこそこ努力を重ねて常に優秀と賞賛されることに慣れている私は、何となく鼻白んだ。

椿さんはハッキリと不満を表明した。
「凡人て!ひっどーい!えー、なになに?野木、自分は凡人じゃないって言ってるよね?それ。む・か・つ・く。」

そう言って、椿さんは野木さんの額を、人差し指でトンと軽く突いた。

……椿さん、いちいち……何てゆーか、芝居かかって気障だわ。

うちのママは歌劇が好きで、私も小さい頃から観てるけど、椿さんの立ち居振る舞いって、まさに男役。
ほんと、おもしろいわ。

「……うぬぬ。経絡秘孔(けいらくひこう)の1つを突かれた。3秒後に、死んでしまう……。」

けど、野木さんは、どこまで本気か冗談かよくわからないことを言いながら、くるくると回って教室を出て行った。

「……おもしろい奴。」
椿さんが低い声でそうつぶやいた。

「うん。おもしろい。野木さんも。椿さんも。」

私はしみじみそう言った。

……楽しいお友達ができて、よかった。